研究課題
正常細胞とRas変異細胞の混合培養時特異的に、細胞境界に特徴的な局在を示し、かつ変異細胞の正常細胞層からの排除を制御する細胞膜タンパク質や細胞膜関連タンパク質の探索と、蛍光免疫染色および電子顕微鏡解析などにより候補の絞り込みを進めた。まず、SILAC (Stable Isotope Labeling by Amino acid in Cell culture) 法により、単独培養時と比較して混合培養時に1.4倍以上の変化が見られた9種類の細胞膜タンパク質について検討を行った。その結果、正常細胞と変異細胞の境界を構成する、正常細胞側の細胞膜で経時的にTIRAPの局在の増減が見られることが明らかになった。一方、研究代表者が確立した、正常細胞と変異細胞の混合培養を用いた光顕-電顕相関観察法を用いて、正常-変異細胞境界、変異-変異細胞境界、そして単独培養における正常もしくは変異細胞境界を構成する細胞膜について、波打ち度合いや突起の頻度に関する詳細な電子顕微鏡解析を行った。その結果、正常細胞と変異細胞の単独培養を比較すると、変異細胞の境界を構成する細胞膜の方が、波打ち度合いと突起の頻度が大きいことが明らかになった。また、正常-変異細胞境界の正常細胞側、および正常細胞に囲まれた変異細胞間の細胞膜では、波打ち度合いと突起の頻度が、単独培養と比較して共に増加することも明らかになった。そこで、細胞膜の突出や陥入構造の形成に関与する6種類のBARファミリータンパク質に注目した。蛍光免疫染色や蛍光標識した候補タンパク質を発現する細胞株を用いた局在解析、候補タンパク質のノックダウン細胞株を用いた検討の結果、FBP17が、正常細胞層からの変異細胞の排除における細胞膜の微細形態を制御している可能性が推測された。
2: おおむね順調に進展している
今年度はSILAC法もしくは詳細な電子顕微鏡解析により、変異細胞の正常上皮細胞層からの逸脱に関与する有力な候補タンパク質 (TIRAPおよびFBP17) が同定され、今後、さらに分子・形態的メカニズムが明らかになる可能性が高いため。
候補タンパク質の分子メカニズムを追究するため、ルシフェラーゼをレポーターとした遺伝子発現解析や免疫沈降法により、候補タンパク質の機能が既知の経路もしくは EDAC特有の新規経路により制御される可能性を明らかにする。このようにして培養細胞系で絞り込まれた有力な候補タンパク質については、小腸の上皮細胞層にRas変異細胞の出現をモザイク状に誘導できる細胞競合モデルマウスを用いて、ex vivoもしくはin vivo における機能解析も進めることにより、候補タンパク質が超初期がんと正常上皮細胞を識別するための生体マーカーとなり得る可能性を提示する。
今年度に購入予定だった、電子顕微鏡用器具などの高額な物品の納品が大幅に遅れたため、研究費の使用計画にも遅れが生じた。来年度は、今年度に遅延した分の使用計画と併せて研究費を使う予定である。細胞培養に使用する器具や培地、抗体なども購入する予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)
FEBS Letter
巻: 591 ページ: 3296-3309
10.1002/1873-3468.12844
Nature Cell Biology
巻: 19 (5) ページ: 530-541
10.1038/ncb3509