研究課題/領域番号 |
17K15589
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
釜崎 とも子 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 特任助教 (20384183)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Ras変異細胞 / BARファミリータンパク質 / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
昨年度に行った透過電子顕微鏡解析から、Ras変異細胞は正常細胞と比較して細胞膜の波打ち度合いおよび突起の頻度が高いことが明らかになった。そこで、今年度は、このようなRas変異細胞の細胞自律的な形態制御に関与するBARファミリータンパク質の探索および機能解析を行った。例えば、5種類のBARタンパク質をそれぞれ過剰発現する細胞株を用いた解析や免疫染色による検討を行った結果、細胞膜の陥入形成に関与するFBP17および突起形成に関与するSRGAP2を同定した。これまでに、蛍光顕微鏡レベルで、FBP17とSRGAP2は共にRas変異細胞において、RasV12の発現依存的に細胞間接着部位に集積し、同様の挙動を示すことが明らかになった。現在、これらのBARタンパク質の細胞膜における局在性や機能の使い分けの可能性を免疫電顕により検討している。さらに、Ras変異細胞においてFBP17もしくはSRGAP2をノックダウンした細胞株を樹立した。これらのノックダウン細胞の細胞膜の微細構造を観察した結果、ノックダウンしていないRas変異細胞と比較して、細胞突起および細胞間隙が劇的に減少していた。また、Ras変異細胞側でのFBP17もしくはSRGAP2のノックダウンにより、変異細胞の正常細胞層からの逸脱が抑制された。この時、ノックダウン細胞に隣接する正常細胞に、細胞競合マーカーであるフィラミンの集積も見られなくなった。以上の結果から、FBP17およびSRGAP2によるRas変異細胞の細胞自律的な形態変化が、正常細胞と変異細胞の相互認識に関与する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、ノックダウン細胞株などを用いた蛍光・電子顕微鏡解析により、Ras変異細胞の細胞自律的な形態制御に関与するFBP17とSRGAP2を同定することに成功した。今後、正常細胞と変異細胞の相互認識に関する分子・形態的メカニズムが明らかになる可能性が高いと考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、細胞膜の波打ち度合いに関する電子顕微鏡解析から、正常細胞と変異細胞の境界において、正常細胞側の細胞膜の波打ち度合いが、単独培養より増加する結果が得られている。今後は、正常細胞において、この形態変化を制御する因子の同定を試みる。ノックダウン細胞株などを用いた蛍光・電子顕微鏡解析を用いる予定である。 小腸の上皮細胞層にRas変異細胞の出現をモザイク状に誘導できる細胞競合モデルマウスを用いて、ex vivoもしくはin vivo におけるFBP17およびSRGAP2の機能解析を試みる。これらのBARタンパク質ががん細胞と正常上皮細胞を識別するための生体マーカーとなり得る可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
電子顕微鏡用器具および試薬等の高額な物品を今年度に購入予定だったが、納品が大幅に遅れたため、研究費の使用計画にも遅れが生じた。来年度は、今年度に遅延した分の使用計画と併せて研究費を使う予定である。細胞培養に使用する器具や培地、抗体なども購入する予定である。
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