上皮細胞層に一つ、または数個のがん原性変異を持つ細胞が生じると、変異細胞の周囲を正常細胞が取り囲むことになる。これまでに我々は、変異細胞が隣接する正常細胞によって積極的に排除されることを示してきたが、変異細胞と正常細胞が互いを認識する分子および形態メカニズムは明らかにされていない。正常-変異細胞間相互作用の最初期の反応は、変異細胞と隣接する正常細胞の境界を構成する細胞膜を介して行われると予想される。上皮細胞層に生じた変異細胞における自律的なシグナル伝達の変化が、変異細胞と隣接する正常細胞の境界を構成する細胞膜や細胞膜タンパク質に生理的・物理的影響を及ぼすことで、変異細胞と隣接する正常細胞それぞれの細胞非自律的なシグナルが活性化されることが想定される。本研究においては、これまでに、Ras変異細胞の自律的な形態制御を司り、かつ正常細胞との相互作用に重要な因子としてFBP17およびSRGAP2を同定した。 今年度は、変異細胞の自律的変化を隣接する正常細胞が受容する際、細胞間接着部位を構成する細胞膜が示す動態を明らかにするため、細胞膜を蛍光ラベルした変異細胞を用いて、変異細胞と正常細胞の境界について超解像ライブイメージングを試みた。予備的解析から、細胞間接着部位での変異細胞の突起のダイナミックな伸縮の様子や、多色観察の条件設定を行うことに成功した。また、変異細胞におけるFBP17が、隣接する正常細胞側へ及ぼす物理的影響も可視化できる可能性を掴んだ。 さらに、モザイク上にRas変異細胞を生じさせたマウス小腸の組織切片を用いて、免疫蛍光染色像と電子顕微鏡像を相関観察する系の立ち上げにも着手した。今後、Ras変異細胞と正常細胞の境界におけるFBP17の機能解析を組織レベルでも行うことが可能になると期待される。
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