研究課題/領域番号 |
17K15595
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
長野 太輝 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 研究員 (00759988)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞老化 / Dアミノ酸酸化酵素 / 個体老化 / マクロピノサイトーシス |
研究実績の概要 |
本年度は、本研究課題の標的遺伝子であるDアミノ酸酸化酵素(DAO)およびLymphocyte Antigen 6 family member D (LY6D)の細胞老化における機能解析を行い、以下の成果を得た。 1. DAOについては、前年度までに得ていた知見である、活性酸素種の産生により細胞老化を促進するという点についてさらに詳細な解析を行った。前年度までは抗がん剤処理によるDNA損傷誘導時にDAOが老化促進に関わることを明らかにしていたが、がん遺伝子の高発現による老化誘導の際にもDAOの活性が必要であるという知見が得られ、DAOが普遍的に老化誘導に働くことが明らかとなった。また、DAOによる細胞老化促進により、増殖能の低下や老化マーカーとなるβガラクトシダーゼの活性上昇だけでなく、炎症性タンパク質の分泌に対しても促進的に働くことが観察され、DAOが老化の際に起こる表現型の変化に対して広範な影響を持つことがわかった。以上の成果はLife Science Alliance 誌にて発表した。 2. LY6Dについても細胞老化との関連について解析を行った結果、老化細胞で観察される細胞質での空胞形成がLY6D依存的に起こることが明らかとなった。また、この空胞形成はエンドサイトーシスの一種であるマクロピノサイトーシスにより形成され、低栄養で培養した際の老化細胞の生存促進に働いている可能性を明らかにした。さらに、LY6Dが空胞形成を誘導するシグナル伝達経路について解析した結果、LY6Dが細胞膜表面のラフト部位に集積することで細胞内のSrcやRasといった因子を活性化することが空胞形成に必要であることを明らかにした。以上の成果については第41回日本分子生物学会年会にて発表を行い、現在投稿論文の執筆を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画ではマウス個体を用いた老化の解析を行う予定であったが、現在マウスの飼育環境の整備を行なっている段階であり、マウス個体を用いた実験を開始できていないことから、進捗は遅れていると言える。しかし、「研究実績の概要」にも記した通り、標的としている遺伝子であるDAOの細胞老化における機能については解析を進めて論文発表を行なったことから、より詳細に細胞老化誘導の分子メカニズムを明らかにしてきていると言える。また、研究計画の段階から対象にしてきたPRODHとDAOに加え、LY6Dの細胞老化における解析も行い、LY6Dが老化細胞の生存促進に働いている可能性を見出してきている。以上の知見は、マウス個体で細胞老化の人為的調節を行う実験系を確立する上でも非常に有用であり、本成果を活かしてマウスでの実験を迅速に進められるように準備を行っている状況であるため、現在までの進捗状況を(3)やや遅れていると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は引き続きマウス実験の整備を進めて行く。課題申請時からの対象遺伝子であるPRODHおよびDAOに加え、平成29年度の解析から新たに細胞老化との関連が明らかになったLY6Dを含めて、これら遺伝子の個体における機能調節がマウスの個体老化に与える影響についての解析を行っていく。それと同時にこれら遺伝子が細胞老化においてどのように働いているかについて、培養細胞を使った実験系でも解析を進めていき、細胞老化誘導の分子メカニズムをより詳細に明らかにして行く。具体的には、LY6Dに関して、細胞膜表面上のラフト部位に集積することでマクロピノサイトーシスが誘導されることを見出しているが、その集積にLY6Dのどの部位が必要であるかを、LY6D変異体を用いた解析により明らかにしていく。また、LY6Dを低分子化合物によりオリゴマー化させることができる変異体を細胞に発現させ、空胞形成を人為的に制御した際に老化細胞の生存に影響を与えられるかを明らかにしていく予定である。
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