膜一回貫通型受容体であるErbB3は、ヘレグリンを受容するとファミリー分子であるErbB2とヘテロ二量体を形成し、細胞の生存や移動を制御している。研究代表者は、細胞間接着分子ネクチン様分子のNecl-4がErbB3と結合し、ヘレグリンによるErbB3/ErbB2のヘテロ二量体化を阻害することを見出した。本研究では、Necl-4によるErbB3/ErbB2のヘテロ二量体化阻害の詳細な機構の解明を目的として実験を行い、本年度は以下に示す結果を得た。 (1)Necl-4によるErbB3/ErbB2ヘテロ二量体化の阻害機構を解明するためには、Necl-4とErbB3の複合体の結晶構造解析が有効である。そこで、東京大学の濡木理教授、石谷隆一郎准教授、森田純子博士の協力のもとにNecl-4/ErbB3複合体の結晶化スクリーニングを実施し、Necl-4/ErbB3複合体と考えられる結晶を得た。その結晶をX線構造解析に供したが、複合体ではなく、ErbB3のみの単量体であった。 (2)Necl-4によるErbB3以外の膜一回貫通型受容体の制御機構を解析する目的で、その結合タンパク質をスクリーニングするため実験系を樹立した。その最中、Necl-4の細胞外ドメイン内の二番目に位置するループ構造部分を組換えタンパク質として調製した際、多数のタンパク質が結合していることを発見した。質量分析を行った結果、肝細胞成長因子(HGF)受容体(c-Met)が同定された。Necl-4とc-Metの結合を検討したところ、結合することを確認した。また、Necl-4がc-Metの機能制御に関係しているかを検討したところ、HGF刺激依存的なc-Metのリン酸化を抑制することが明らかとなった。
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