研究課題/領域番号 |
17K15604
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
平崎 正孝 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (10522154)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ES細胞 |
研究実績の概要 |
安全な再生医療の実現には、ES細胞およびiPS 細胞が共通に有する分化多能性・自己増殖性という特筆すべき性質を、分子レベルで正確に理解することは極めて重要であると考える。私が所属する研究室では、以前にMYC のパートナー因子であるMaxを欠失させたES細胞がアポトーシスを示し、この表現型はNanogの強制発現によって抑圧される事を報告した。しかしながら、なぜMaxを欠失させたES細胞がアポトーシスを示すメカニズムは全く解明されていなかった。そこで、私がMaxホモ欠失ES細胞が呈するアポトーシスの原因を探ることを目的に研究を進めてきた結果、MAX非結合型c-MYCがアポトーシスを誘導し、NANOG は、遊離c-MYCと結合する事で、アポトーシス誘導に対する抑制因子として機能している可能性が示唆された。 そこで、本申請では、(1)Max欠失ES細胞におけるアポトーシス誘導因子としての遊離c-MYC の機能解明と、(2)Maxホモ欠失ES細胞が呈する致死的な表現型を消失させる上でのNANOGの分子機能の解明という2つの研究項目を中心に研究を遂行している。 平成30年度は、アポトーシス誘導因子としての遊離c-MYC の機能解明の為に次の2つの実験計画を立案施工した。 1 強発現Mbd3によって維持されたMax欠損ES細胞の発現解析 2 ChIPシーケンスによるMAX非結合型c-MYCタンパク質のゲノムへの結合部位についての網羅的な解析
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
① Max欠損ES細胞の示すアポトーシスが、強制発現のNanogによって抑制される事を報告した。Nanogは、NuRD複合体と共同に機能する事が報告されている。また、別のグループからNuRDの構成因子であるMbd3はc-Mycと相互作用を示す事が報告された。これらの報告から、Max欠損ES細胞のNanog強制発現によるアポトーシス抑圧は、Nanog/c-Myc/Mbd3複合体で機能している可能を考えた。そこでMbd3をMax欠損ES細胞に導入したところ、アポトーシスが抑制されて長期間培養可能という結果を得た。そこで、Mbd3強制発現Max欠損ES細胞でマイクロアレイ解析を行い、強制発現Mbd3がどの様な遺伝子群の発現に関与しているかを調べた。この計画については、概ね計画通り進んだ。 ② c-Mycタンパクは、全ての機能発揮においてMaxを必要とする訳ではなく、tRNA遺伝子の発現など、RNA polymerase III依存的な転写では、Max非依存的に作用することが知られている。これまでに多くの研究室において、マウスES細胞におけるc-Mycの標的遺伝子を調べる為に、ゲノムワイドなクロマチン免疫沈降解析が行われてきたが、Max欠損ES細胞におけるc-Mycのプロモーターへの結合を調べた例は今まで存在しない。そこで、Max欠損ES細胞を用いてc-Mycに対するChip-seqを行う計画を立てた。c-Mycのchip-seqは、当初Santa Cruz社の抗体(sc-764)を使用する予定であり、条件検討を行ってきていたが、sc-764が急遽製造中止となった。このから、Tag融合c-Mycによるchip-seqに計画を変更し、myc-cMycやFlag-cMycを作成し、検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
Max単独破壊と比較して、三重破壊時にアポトーシスのレべルを調べたが、予想に反して、c-Myc/N-Myc欠損によるアポトーシスの緩和は見られなかった。そこで、sh-RNAによってc-Mycの遺伝子発現を減少させたMax欠失ES細胞を作成し、アポトーシスについての解析を行っ結果、アポトーシスの緩和が見られた。今後は、データの正確性を期すためにAnnexin Vなどの指標を追加する。 c-MycのChip-Seqを計画していたが、使用を予定していた抗体の製造中止があり、Tag融合cMycを検討した。本年度は、条件を検討後、chip-seqを行う事とする。また、Nanog強制発現Max欠失ES細胞でのc-MYCのゲノムでの結合部位を明らかにする。 Max欠失ES細胞が呈する致死的な表現型はMbd3の強制発現によって回避される事を見出した。平成30年度に、Mbd3 強制発現Max欠失ES細胞に対してDNAマイクロアレイ解析を行い、強制発現されたMBD3がどの様な遺伝子群の発現に関与しているかを明らかにした。Mbd3はリン酸化によって、その活性は制御されている事が推定されているが、恒常的にリン酸化できないMbd3変異体では、Max 欠失 ES 細胞が呈する致死的な表現型は、レスキュー出来ない。マイクロアレイ解析で、網羅的な遺伝子発現を調べる事で、Mbd3によるレスキューのメカニズムが理解できると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
Max/c-Myc/N-Myc遺伝子三重破壊ES細胞の作成と表現型解析 Max欠失ES細胞におけるMYCの機能を明らかにする為に、Max/c-Myc/N-Myc遺伝子トリフルホモ欠失ES 細胞を作製し表現型解析(特にアポトーシス)を行った。TUNELやCaspase-3などを指標に、Max単独破壊と比較して、三重破壊時にアポトーシスのレべルを調べたが、予想に反して、c-Myc/N-Myc欠損によるアポトーシスの緩和は見られなかった。本来は、Max/c-Myc/N-Myc遺伝子三重破壊ES細胞においてDNAマイクロアレイ解析を行う計画であったが、アポトーシスの抑圧が見られなかった為、控えた。 しかし、ノックアウトではなく、ノックダウンの系で実験をやり直したとこと、期待通りの結果が得れている為、DNA マイクロアレイ解析を行う予定である。 Max欠損ES細胞を用いてc-Mycに対するChip-seqを行う計画を立てた。しかし、c-Mycのchip-seqで使用するはずであった、Santa Cruz社の抗体(sc-764)が急遽製造中止となった。この事から、c-Mycのchip-seqが行えていない。そこで、2019年度に差額が生じた予算を使用して、chip-seqを行う予定である。
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