研究課題/領域番号 |
17K15606
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
下中 翔太郎 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 博士研究員 (90778747)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Alzheimer病 / Tau / PICALM / 異常凝集 / 伝播 |
研究実績の概要 |
本研究においてはAlzheimer病(AD)の危険因子とされるPICALMがEndocytosis関連因子であることに着目し、ADの原因タンパクとされるTauの異常凝集体の細胞間伝播とPICALMの関係について、細胞にTauとPICALMを共発現させるモデルを用いて解析した。 (1)昨年度までに、Tau発現細胞に「凝集核(Seed)」として試験管内で凝集させたRecombinant Tauの線維を導入するAD細胞モデルに対して、PICALMを共発現させたところ、発現なしのものと比較して異常凝集Tauの量が低下することが明らかになった。この結果を詳細に検討するため、PICALMのN末端(PIC-NT: 1-413)およびC末端(PIC-CT: 414-652)の発現コンストラクトを作成して上記の細胞モデルに発現させ、全長(PIC-FL: 1-652)発現時の結果と比較した。その結果、PIC-FL発現時と同程度の異常凝集Tauの低下がPIC-CT発現細胞において観察された。PIC-NTを発現させた細胞においては、異常凝集Tauの低下は見られなかった。 (2)Tauの細胞内への取り込みを観察するため、蛍光標識Recombinant Tau線維の調製を行った。その後、線維を培養上清に添加してインキュベートした後に細胞を固定することで、蛍光顕微鏡でTau線維を観察することができる。しかし、PICALM発現細胞に対して蛍光標識線維を加えて観察を行ったところ、発現の有無でTau線維の取り込み量の差は認められなかった。以上のことから、AD細胞モデルにおける異常凝集Tauの減少には、PICALMのC末端側が働いていることが示唆された。一方、PICALMがTau線維の取り込みを阻害するという仮説については、もう一度様々な視点から検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の実験において、PICALM発現によるAD細胞モデルにおけるTauの異常凝集の低下については、PICALMのC末端領域な重要な役割を果たしていることを示唆する知見を得ることができた。PICALMのC末端領域にはClathrin結合領域が位置しており、この領域を欠損したPIC-NTでは異常凝集の低下が観察されなかったことから、Clathrinとの相互作用が可能かどうかが、Tau異常凝集の低下に関係するという可能性を考えている。一方、PICALMのC末端領域はGFP-PICALMの凝集能を担う部位でもあり、PICALM同士の相互作用、もしくは立体構造の形成に関与しているとも思われる。以上の知見は、ADにおけるTauとPICALMの関連について、さらに踏み込んだ研究の足がかりとなり得る。 しかし、Tau線維の取り込みに直接焦点を当てた実験については、当初予想していた結果を得ることができなかった。蛍光色素で標識したTau線維をPICALM発現PlasmidでTransfectionした細胞に添加した後、固定して蛍光観察を行い、PICALM発現の有無で蛍光標識Tau線維の取り込みが変化するかどうかを確認したが、両者に差は見られなかった。これに関しては、蛍光顕微鏡観察だけでなく、Flow-cytometer等を使用した実験系など、別のアプローチを採用していく必要がある。もしくは、PICALM発現による凝集Tauの低下について、「Tauの外部からの取り込みの変化」ではない他の作用機構を考えていく必要性も考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)細胞へのTau/PICALM共発現モデルのさらなる解析: PIC-FL、NTおよびCTとTauを共発現させる従来のモデルは、2つのplasmidのdouble-transfectionを用いており、実際には片方のタンパクしか発現していない細胞も一定の割合で存在している。そこで、1つのplasmidから2種のタンパクを発現させるbi-directional発現vectorにTauと各種PICALMをcloningし、より高精度な共発現系の構築を試みる。 (2)蛍光標識Tau線維の細胞への取り込みの解析: カバースリップ上で培養した細胞にTau線維を取り込ませ、固定して蛍光顕微鏡で観察する系では、取り込まれた線維と表面に接着したままの線維を区別することが困難である。そこで、蛍光標識Tau線維を加えた後の細胞をTrypsinおよびHeparinaseで処理し、取り込まれなかった線維を分解、または細胞表面から剥離させてから、Flow-cytometerにより蛍光標識Tau線維を取り込んだ細胞の割合を解析する実験系を検討している。 (3)pH応答性蛍光色素でのTau線維の標識と細胞への取り込み実験への応用: 中性pHでは蛍光を発さず、pHの低下によって発光するpH応答性の各種蛍光色素が市販されている。この色素は後期Endosomeの低pH環境で蛍光を発することから、Endocytosisによる分子の取り込みの検出に利用することができる。そこで、調製したTau線維をpH応答性蛍光色素で標識し、細胞への取り込み実験に使用することを試みる。まず、蛍光顕微鏡観察により、細胞内で発光することを確認してから、PICALM発現細胞を対象にした取り込み実験を行う。併せて、Flow-Cytometerを用いたより定量的な解析も実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
蛍光標識Tau線維を用いた細胞内取込み実験にて、当初予想していた「PICALM発現細胞においてはTau線維の取込み量が減少する」という結果が得られなかったことなどから、予定していた(1)蛍光標識Transferrin、EGFを用いたPICALM発現細胞におけるendocytosisのmonitoring、(2)Recombinant PICALMを得る為の発現Vectorの構築と大腸菌での大量発現、および精製、といった実験の実施を見送った影響で、予算に余りが生じた。 次年度でも、細胞内取込み実験に供する為に、通常、およびpH応答性の蛍光色素でのTau線維の標識を頻繁に行う予定である。 そこで、余った予算に関しては、各蛍光色素のタンパク標識kitの購入に大部分を充てる。それに加えて、Transfection試薬といった、比較的高価かつ当該研究において使用頻度の高い試薬の購入にも使用していきたい。
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