本研究においては当初、ADの原因タンパクとされるTauの異常凝集体の細胞間伝播とPICALMの関係について、細胞にTauとPICALMを共発現させるモデルを用いて解析していた。結果として、共発現によりAD-tauを凝集核とした細胞内tau凝集の減少が見られたことから、PICALM発現がAD-tau取り込みを減少させるという仮説を立てた。しかし、蛍光標識tauを用いた取り込み実験では、PICALM発現の有無でその程度に変化が見られず、仮説の修正を余儀なくされていた。 Tau凝集過程におけるPICALMとtauの相互作用の有無を調べる過程で、Tauの353-368aaをAla置換した変異体は、AD-tau凝集核との反応性が減少することが明らかになった。興味深いことに、CBD、PSP-tauといった他のtauopathy由来の凝集核との反応性は失われておらず、この配列がtauopahtyにおけるtauの構造・性質の違い(strain)を区別する機能を果たしていることが示唆された。 実験を進めた結果、353-368aaの配列中のAsn-368残基が、strainの区別において重要な役割を果たしていることが明らかになった。AD-tauのCryo-EM構造において、Asn-368は対側のpeptide鎖上のSer-320と向かい合う形で近接している。このSer-320をAlaに置換することにより、Asn-368の変異同様にAD-tau凝集核との反応性が選択的に減少し、Asn-368とSer-320はAD-typeのtau凝集において協働して特有の構造形成に寄与していることが示唆された。 以上の結果はThe Journal of Biological Chemistry誌に掲載された。本研究の結果は、症状や病理の異なる各種tauopathyの分子的な相違点が生じる機構を解く鍵となり得る。
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