研究課題/領域番号 |
17K15609
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
中村 昌人 千葉大学, 医学部附属病院, 特任助教 (10756703)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪肝炎 / microRNA |
研究実績の概要 |
肝硬変及び肝細胞癌の主要な原因の一つである非アルコール性脂肪肝炎(NASH)について、本研究では、特に、細胞間・臓器間情報伝達物質としての役割が注目されているmicroRNAに着目し、その作用機序と発現制御による肝炎症・肝線維化抑制効果を明らかにし、治療薬候補を見出だすことを目的とした。 これまでの検討により、NASHモデルマウスであるメチオニン・コリン欠乏食マウスの肝組織において有意な発現変化を来すmicroRNAを複数個同定していた。これらのmicroRNAのうち、発現亢進が最も顕著であったmiR-200bに注目して以後の検討を行った。 ヒト肝生検標本中のmicroRNAをリアルタイムPCR法で定量した結果、単純性脂肪肝患者と比較して、NASH患者、特に肝硬変に進行したNASH患者でmiR-200bの有意な発現亢進を認めた。 そこで、miR-200bの発現亢進がNASH発症に関与しているか、また、miR-200bの制御がNASH新規治療となり得るかを検討するために、NASHモデルマウスにmiR-200b配列特異的阻害剤を4週間尾静脈投与し、肝炎症および肝線維化に対する影響を検討した。その結果、miR-200b阻害剤投与マウスにおいて、肝逸脱酵素の低下、炎症関連遺伝子発現の低下、線維化関連遺伝子発現の低下を認めた。また、病理組織学的検討でも、活性化マクロファージ数の減少、線維化面積の減少を認め、miR-200b阻害がNASHモデルにおいて肝炎症及び肝線維化を抑制する効果を有することが明らかとなった。 さらに、ヒト肝癌細胞株であるHepG2細胞にmiR-200bを過剰発現させた結果、パルミチン酸刺激による炎症性サイトカインの産生亢進を認め、肝細胞での炎症性サイトカイン産生制御がmiR-200bの作用機序の一つである可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、事前検討でNASHモデルマウスの肝臓で有意な発現変化を示していたmicroRNAについて、特にmiR-200bに着目し、ヒト検体での発現変化を明らかとした。さらには、miR-200b阻害による肝炎症および肝線維化改善効果をマウスモデルで検討し、肝逸脱酵素の低下、活性化マクロファージの集簇抑制、肝線維化面積の減少を認めたことから、microRNAがNASHの発症に関与し、さらにはその制御がNASH治療法となり得る可能性が明らかとなり、本研究のコンセプトを実証できたものと考える。さらには、miR-200bの作用機序として、飽和脂肪酸刺激による肝細胞からの炎症性サイトカイン産生に着目し、miR-200b過剰発現系を用いて、miR-200bが炎症性サイトカイン産生亢進に作用することを示した。一方で、miR-200bが標的とする遺伝子については同定できていない。加えて、肝組織における炎症性サイトカインの産生源として肝細胞以外にマクロファージ等の炎症細胞が重要と考えられるが、肝細胞以外の細胞に対する効果は検討できていない。また、肝線維化に重要である肝星細胞への影響についても検討の必要がある。 以上のようにmicroRNAの作用機序については実験データが不足しているものの、複数の候補microRNAからNASH発症に重要なmicroRNAを明らかにし、治療標的としての可能性を示すことができており、本研究は概ね予定通り進行しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の検討により、miR-200bの発現亢進がNASH発症に関与し、その阻害が新規治療法となり得る可能性が明らかとなり、microRNA制御によるNASH治療のコンセプトを確認することができた。今後、新規治療法としての応用を達成するためにはmicroRNAの作用機序の解明が必須であると考えられる。そこで次年度は、培養細胞レベルでmiR-200bの作用機序の更なる検討を行う。NASH発症機序として、肝細胞のアポトーシス、オートファジー、糖代謝異常、脂肪代謝異常、酸化ストレスなどが重要であると考えられている。これらに注目して、microRNA過剰発現あるいは阻害実験を行い、細胞死測定や各種マーカー遺伝子の発現定量によりmicroRNAの影響を検討する。また、マクロファージ等の炎症細胞のおける炎症性サイトカイン産生、肝星細胞における細胞外マトリクス産生へのmiR-200bの影響も同様に検討する。さらに、miR-200bが標的とする遺伝子の同定を行う。microRNAの配列から標的遺伝子予測を行い、前述の発症機序と関連する遺伝子について発現変化やmiR-200bとの結合の有無を評価する。 また、次年度の計画として、注目したmicroRNAの発現を評価するスクリーニング系を確立し、低分子化合物のスクリーニングを行う予定としていた。miR-200b発現を低下させる薬物が治療薬として有用な可能性があるが、現在使用している肝癌細胞株はmiR-200bの発現量が低く、miR-200b発現低下を評価する系の構築は困難であると予想される。そのため、miR-200bの発現量が多い細胞株を検索するとともに、現在使用中の細胞株でも十分な発現量が確認できているmiR-200b発現を制御する上流の転写因子に注目し、その転写因子の発現変化をモニタリングする系の構築に変更することも計画している。
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