肝硬変及び肝細胞癌の主要な原因の一つである非アルコール性脂肪肝炎(NASH)について、本研究では、特に、細胞間・臓器間情報伝達物質としての役割が注目されているmicroRNAに着目し、その作用機序と発現制御による肝炎症・肝線維化抑制効果を明らかにし、治療薬候補を見出だすことを目的とした。 事前検討でNASHモデルマウスであるメチオニン・コリン欠乏食マウスの肝組織において、最も顕著な発現亢進を示したmiR-200bに注目し、以下の解析を行った。 前年度までに、ヒト肝生検標本を用いた検討により、単純性脂肪肝患者と比較して、NASH患者、特に肝硬変に進行したNASH患者でmiR-200b発現が有意に亢進していることを確認し、NASH患者でもマウスと同様の変化が生じていることを明らかにした。また、NASHモデルマウスへのmiR-200b阻害剤投与により、肝逸脱酵素の低下、炎症関連遺伝子および線維化関連遺伝子の発現低下、線維化面積の減少が得られることを確認した。これにより、miR-200b阻害がNASHモデルマウスにおいて肝炎症及び肝線維化を抑制することを示した。 最終年度では、上記マウス検体を用い、miR-200b阻害剤投与が肝内脂質量に影響しないことを確認した。また、マウス肝癌細胞株であるHepa1-6細胞へのmiR-200b過剰発現が、過酸化水素処理による細胞死を増強することを明らかにし、活性酸素への感受性亢進がmiR-200bの作用機序の一つである可能性を示した。 以上より、microRNA-200bが肝細胞死や肝炎症・肝線維化の制御を介してNASH発症に関与していること、その阻害がNASH治療法となり得ることを明らかにした。 本研究により、microRNA制御によるNASH治療という治療コンセプトが実証され、有効な治療法が確立していないNASHに新たな可能性を示すことができた。
|