研究実績の概要 |
【背景と目的】肝癌形成時のインスリン/IGFシグナルの役割は不明な点が多い.我々はインスリン/IGFシグナル上流に位置するインスリン受容体基質(Irs)1,Irs2に着目し肝癌での役割を解明することを目的とした.【方法】15日齢の肝臓特異的Irs1欠損マウス(LIrs1KO),肝臓特異的Irs2欠損マウス(LIrs2KO)にジエチルニトロサミン(DEN)を腹腔内注射により25mg/kg単回投与して肝癌を誘発し(10ヶ月),表現型を解析した.また,野生型マウス初代培養肝細胞を用いてIrsの発現調節機構を検討した.【結果】肝癌ではIrs1の発現増加とインスリンシグナルの亢進を認めた.LIrs1KOではDENによる腫瘍形成が抑制され,また,腫瘍部でのAktやmTORの活性化が抑制され,増殖能も低下していた.LIrs1KOの腫瘍部では炎症/浸潤に関連する遺伝子発現の低下も認めた.一方,LIrs2KOでは対照群と同等の肝癌形成を認め,LIrs1KOの腫瘍部で見られた一連の変化を認めなかった.また,肝癌ではWnt経路の活性化を認めたが,マウス初代培養肝細胞においてWnt3a刺激によりIrs1の発現は増加した.この変化はDN-TCF4で抑制され,肝においてもIrs1がWnt経路で制御されていた.最後にIrs1が欠損した肝癌の特徴を網羅的に解析するため,LIrs1KOの腫瘍部と対照群の腫瘍部のcDNAマイクロアレイ解析を行った結果,LIrs1KOの腫瘍部ではワールブルグ効果の減弱や脂質代謝の変化など,代謝面の変化が多く認められた.【結論】肝癌形成時にWnt経路の亢進により発現増加したIrs1はインスリンシグナルの活性化に関与し,肝癌進展において重要な役割を担うと考えられた.
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