細胞骨格の一つである中間径フィラメントは、細胞外力から細胞を保護するために必要である。当研究室では、中間径フィラメントのもう一つの重要な機能として、細胞分裂時にキナーゼによって中間径フィラメントがリン酸化し、脱重合することが、正常な細胞分裂に必要な現象であることを明らかにしてきた。そのため、中間径フィラメントのリン酸化不全は細胞分裂障害を誘導し、個体レベルでは早期老化症状との関与を明らかにしてきた。しかし、中間径フィラメントは、細胞特異性が高く、種々の細胞で異なる中間径フィラメントを発現している。本研究では、筋肉特異的な中間径フィラメントであるデスミンに着目し、細胞融合により多核となる筋組織における中間径フィラメントのリン酸化の意義についてデスミンリン酸化不全マウスを用いて個体レベルで明らかにするという着想に至った。 筋組織特異的な中間径フィラメントであるデスミンリン酸化の生理的意義を明らかにするため、デスミンリン酸化不全マウスを作製した。デスミンリン酸化不全マウスは野生型マウスと比べ、外観の差は認められなかった。一方で、心筋のデスミン発現が経時的に減少することが分かり、心機能の評価が今後の課題となった。また、骨格筋に関しては、グリセロール投与による急性骨格筋障害を誘導すると、デスミンリン酸化不全マウスは野生型マウスに比べ、障害範囲が広く、筋再生の遅延がみられた。今後、既存筋組織の恒常性について、そして筋肉幹細胞である筋衛星細胞からの分化異常について詳細な機能解析が必要である。
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