前年度の研究で私たちは大腸癌の幹細胞関連遺伝子として報告のある分子からKLF5遺伝子に着目し、enChIP (engineered DNA-binding molecule-mediated chromatin immunoprecipitation) 法によってKLF5遺伝子のエンハンサー候補領域を複数同定することに成功した。平成30年度はその中で統計学的に最も有意にKLF5遺伝子のプロモーター領域との結合が示唆される領域 (以後エンハンサー領域Xと記載) に着目し、解析を進めた。まず、エンハンサー領域XがKLF5遺伝子と同じTAD (topologically associating domain) に含まれるかどうかについて検討するために大腸癌細胞株を用いてin situ Hi-C実験を行った。その結果、エンハンサー領域XはKLF5遺伝子のプロモーター領域と同じTAD内に存在する可能性が示唆された。次に三次元ゲノム構造を介したKLF5遺伝子の発現制御に関わる分子について検討を行った。前年度の検討でpan-BETタンパク質阻害剤であるJQ1によってKLF5遺伝子発現が抑制されることが明らかになったため、どのBETファミリータンパク質がKLF5遺伝子の発現に重要であるかについて阻害剤やsiRNAを用いて検討を行ったところ、BRD4がKLF5遺伝子の発現に最も関わっており、他のBETファミリータンパク質であるBRD2やBRD3による影響は少ないことが示唆された。以上の結果より、先行研究で報告した卵巣癌同様に大腸癌においても癌幹細胞関連遺伝子の発現がBRD4を介した三次元ゲノム構造によって調節されている可能性が示された。
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