研究課題/領域番号 |
17K15619
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
前原 奈都美 大阪大学, 医学系研究科, 特任研究員(常勤) (90783621)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Wnt5a / 大腸がん / 炎症性腸疾患 / AOM/DSS / 線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
本研究目的は、腸管炎症を亢進する分泌性タンパク質Wnt5aによる、炎症を背景とした大腸がんの腫瘍形成における影響を解明することである。平成29年度における本研究の実績は下記の通りである。 1. 炎症を背景とする腫瘍形成過程におけるWnt5a発現細胞の同定:腸管潰瘍部および大腸がん組織において、Wnt5aを高発現する細胞を同定するため、各種細胞マーカー(gp38、CD31、CD45)に対する抗体と抗Wnt5a抗体を用いた免疫組織染色による解析を行った。その結果、腸管潰瘍部および大腸がん組織のどちらにおいても、線維芽細胞(gp38陽性、CD31陰性、CD45陰性)がWnt5aの発現細胞であることが明らかになった。 2. 炎症を背景とする腫瘍形成過程におけるWnt5a発現時期の同定:腸管炎症時に生じるWnt5aの発現上昇が、大腸がん腫瘍の発生および進展に影響するかを検証するため、AOM/DSS大腸がんモデルを用いて、腸管炎症から大腸がん発生の過程におけるWnt5aの発現様式を解析した。その結果、腸管炎症が鎮静化するとWnt5aの発現は一旦減弱するが、微小腺腫発生時以降において、再びWnt5aの発現上昇を認めた。 3. 炎症を背景とする腫瘍形成過程におけるWnt5a発現制御機構の解明:上記2項目より、腫瘍形成の初期から線維芽細胞において、Wnt5aの発現が上昇することを明らかにした。そこで、Wnt5aの発現制御機構を明らかにするため、各種細胞マーカー(gp38、CD31、CD45)に対する抗体と抗Wnt5a抗体を用いたフローサイトメトリー法による細胞分離を行い、Wnt5a低発現および高発現の線維芽細胞を採集し、RNAシークエンス解析を行った。その結果、腸管炎症時および大腸がん形成時におけるWnt5aの発現は、TGFbシグナルによって誘導されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では平成29年度において、Wnt5aの発現制御機構を明らかにするため、フローサイトメトリー法を用いた細胞分離を行い、Wnt5a低発現および高発現線維芽細胞をそれぞれ用いたRNAシーケンス解析を行った。その結果から、Wnt5aの発現制御機構だけではなく、Wnt5a発現線維芽細胞と比較して、Wnt5a高発現線維芽細胞において発現が上昇している増殖因子を複数同定した。これらの増殖因子の分泌が、腫瘍形成におけるWnt5a高発現線維芽細胞の役割である可能性は高いと考えられる。以上のことから、本研究課題の解明において当初の計画以上に進展しているもの考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究推進方策は下記の通りである。 1. Wnt5a受容細胞の同定:平成29年度の研究成果から、Wnt5aの発現細胞は線維芽細胞であることを明らかにした。また、線維芽細胞は他の細胞種と比較して、Wnt5a受容体であるRor2の発現が高く、Wnt5aは線維芽細胞に作用する可能性が高いと考えられる。そこで、線維芽細胞特異的Ror2欠損マウスをAOM/DSS誘導性大腸がんモデルに導入し、腺腫と腺がんの発生率および腫瘍径を計測する。 2. Wnt5a受容細胞における下流標的シグナル・標的遺伝子の同定:平成29年度に行ったRNAシーケンス(Wnt5a低発現繊維芽細胞とWnt5a高発現線維芽細胞の比較)の結果から、Wnt5aを高発現する線維が細胞において、発現が上昇しているいくつかの増殖因子が同定された。線維芽細胞と大腸がんオルガノイドの共培養系を用いて、候補因子の中から、Wnt5a発現上昇に伴って発現し、大腸がんオルガノイドの増殖を促進するものを明らかにする。また上記候補因子が、腫瘍形成過程におけるWnt5aの下流標的因子として機能するかを個体レベルで評価するために、CRISPR/Casシステムを用いた遺伝子改変技術によって、候補因子のノックアウトマウスを作製する。このノックアウトマウスにAOM/DSS誘導性大腸がんモデルを導入することで、Wnt5aによる腫瘍形成の亢進が、候補因子を介するかを検証する。 3. 抗Wnt5aモノクローナル中和抗体を用いた抗腫瘍効果の検討:AOM/DSS大腸がん腫瘍に対する抗Wnt5aモノクローナル中和抗体の効果を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は当初の予定よりも、マウスや試薬の購入費が少なくなったため、次年度使用額が生じた。次年度は、遺伝子組み換えマウスの作製・導入や、試薬の購入を計画している。
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