研究課題/領域番号 |
17K15623
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
波田 一誠 大分大学, 医学部, 助教 (00546202)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 断片化tRNA (tRF) / CLP1 / 橋小脳低形成 / 神経変性疾患 / ヒト神経芽細胞株 / ゼブラフィッシュ / 糖代謝酵素 |
研究実績の概要 |
橋小脳低形成(PCH)の10型は、RNA キナーゼ CLP1 遺伝子変異によって断片化した tRNA (tRF) が核内に蓄積すること、p53 の活性化によって神経特異的に細胞死が生じることが知られている。しかしながら、この病因が tRF の蓄積によるものなのか、またCLP1 遺伝子変異がどのような経路を介して p53 を活性化しているのか、その詳細は未だ明らかにされていない。そこで本研究では、この疾患に対する治療法開発の一助となることを期待し、ヒト神経芽細胞株、ゼブラフィッシュそしてマウスをモデルに、CLP1 遺伝子変異による神経変性疾患の詳細な分子メカニズムを解明することを目的とする。29年度は、 ヒト神経芽細胞株とゼブラフィッシュを用いた解析によって、ある tRF (xtRF)がp53 を介して神経変性を引き起こすことを見出した。従って30年度は、xtRFがどのような因子を介してp53 を活性化しているのかを明らかにするために解析を行った。 申請者は xtRF と相互作用するタンパク質を同定するために、プロテアーゼプロテクションアッセイを利用した。具体的には、ヒト神経芽細胞株の粗抽出液に xtRF を混合し、プロテアーゼで処理した後に、xtRF にプロテクトされて消化されずに残ったタンパク質断片を解析した。その結果、xtRF と相互作用するタンパク質として、糖代謝経路で機能している酵素が2つ見いだされた。 これは、RNA キナーゼ CLP1 遺伝子変異の病態メカニズムの詳細を明らかにしただけでなく、機能性 RNA が糖代謝経路を介して神経変性を引き起こしている可能性を示した世界で初めての報告である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度の計画は、「xtRFがどのような因子を介してp53 を活性化しているのか?」を明らかにすることであった。当初の予定では、1)プロテアーゼプロテクションアッセイとSILAC 法による tRF 結合タンパク質(tRFBP)の同定、2) EMSA による tRFBP の tRF への結合能の確認、3) CRISPR/Cas9 システムを用いたtRFBP 欠損細胞株、ゼブラフィッシュあるいはマウスの作製を行う予定であった。しかしながら、【研究実績の概要】に示してあるように、平成30年度は、計画1)の tRFBP の同定のみしか達成できなかった。その主な要因として、計画 1)で使用している手法の条件検討に多くの時間を費やす必要があったことがあげられる。また、申請者は大腸菌や哺乳細胞株を用いて tRFBP のリコンビナントタンパク質を作製しようとしたが、いずれも可溶性タンパク質として得ることができなかった。さらに、tRFBPは生物にとって必須の酵素であるために、tRFBP 欠損神経細胞株、ゼブラフィッシュあるいはマウスの作製が困難であった。従って、平成30年度に計画 2)と 3)を遂行することはできなかった。 従って申請者は、当初の計画を予定どおり遂行することができなかったために、本研究の進捗状況における区分を (3) やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に遂行する予定であった計画 2)EMSA による tRFBP の tRF への結合能の確認に関しては、引き続き可溶性のリコンビナントタンパク質の作製を試みる。具体的には、大腸菌の発現系においては、低温でタンパク質を発現させて可溶化するのかを確認する。また、大腸菌で発現しなかった場合は、昆虫細胞あるいはウサギ網状赤血球系の無細胞タンパク質合成システムを用いたタンパク質発現も試みる。可溶性のタンパク質が得られれば、当初の計画通り、EMSA を用いて tRFBP が tRF へ結合するのかを検証する。 平成31年度に遂行する予定である「tRFBP 欠損神経細胞株あるいはゼブラフィッシュを用いて、xtRF の蓄積によって生じる神経変性がtRFBPを介しているのかを明らかにする」という計画に関しては、平成30年度の計画 3)が遂行できないため、当初の計画を変更する。具体的には、tRFBP の mRNAを作製し、xtRFとともに神経細胞株にコトランスフェクションを行う。同様に、ゼブラフィッシュ胚にtRFBP mRNA と xtRF をコインジェクションする。xtRFによる神経異常が tRFBP mRNA の導入によって、回復もしくはさらに悪化することを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本学では今年度より動物施設の改修が始まり、本研究にかかるマウス実験のための設定が一部施行できなかった。従って、今年度の繰り越し金をその分に充てる予定である。
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