研究課題/領域番号 |
17K15624
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
村尾 直哉 宮崎大学, 医学部, 助教 (20773534)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 小胞体 / 精神疾患 / グリア細胞 |
研究実績の概要 |
昨今の多様化した精神疾患の多くは決定的な原因や治療法が未だに不明である。近年、精神疾患に共通して観察される脳内慢性炎症の沈静化が、多様化した精神疾患に共通した病態改善の鍵となり得ると考えられている。本研究では、小胞体膜タンパク質Derlin-1の中枢神経系特異的な欠損による小胞体ストレスの遷延化が、慢性的な脳内炎症を引き起こすことに着目し、精神疾患発症における小胞体品質管理機構の関連を明らかにすることを目的として解析を行なった。その結果、中枢神経特異的なDerlin-1欠損マウスは様々な精神疾患様の行動異常が観察され、同時にニューロン特異的なDerlin-1欠損マウスの解析により脳内での慢性炎症の惹起にはニューロンにおける小胞体品質管理機構の破綻が関与することが明らかになった。加えて中枢神経全体およびニューロン特異的なDerlin-1欠損マウスでは脳サイズの顕著な減少が観察され、これらDerlin-1欠損マウスではニューロンの樹状突起の形成に障害がみられた。さらに、これまでに観察された脳サイズの減少やグリア細胞の増加が小胞体品質管理機構の破綻に起因しているかを調べるため、タンパク質の折りたたみ不全を修復し小胞体ストレスを軽減させるケミカルシャペロンを継続的に中枢神経特異的なDerlin-1欠損マウスに投与し解析を行なった。その結果、特定の脳領域において脳サイズの減少やアストロサイトの異常な増生が抑制された。これまでの解析により、小胞体恒常性破綻が脳内炎症や脳サイズの減少を介して様々な精神疾患の発症に関与していることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度に計画していた実験がある程度終了し、且つ平成30年度に計画していた実験の一部を開始しているため。 平成29年度は(1)中枢神経系特異的な Derlin-1 の欠損による脳内神経細胞への影響の解明、及び(2)小胞体ストレス応答の破綻により精神疾患様行動を誘発する責任細胞種の同定、という2つの実験計画に従い実験を行なった。(1)では脳サイズの萎縮や部位別のニューロンの樹状突起の形成の異常などが明らかとなり、同時に脳部位別のグリア細胞の増生やミクログリアの増生の程度の違いなどの解析も行なった。(2)ではニューロンおよびアストロサイト特異的なDerlin-1欠損マウスを作成し、脳サイズや脳内炎症の程度を調べた。その結果、ニューロン特異的にDerlin-1を欠損させたマウスにおいて中枢神経全体でDerlin-1を欠損させたマウスと非常に類似した表現型を示し、同時に行動解析においても中枢神経特異的なDerlin-1欠損マウスと類似した結果を示した。これらの結果からニューロンにおける小胞体品質管理機構の破綻が重要であることが示唆された。 さらに、平成30年度に実施予定であった小胞体ストレスを軽減させる薬剤の投与の実験も開始しており、実際に脳サイズの減少の抑制やグリア細胞増生の抑制などが観察されている。 以上より、本研究の目的の達成度としては、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析により、様々な精神疾患様の異常行動を示すDerlin-1欠損マウスにおいてどの脳領域別の異常の程度が明らかになってきており、それが小胞体品質管理機構の改善により改善され得ることもわかった。本研究では、中枢神経系での小胞体ストレス応答機構の破綻が精神疾患に共通する脳内炎症を引き起こすメカニズムの解明、及びそれにより誘導される精神疾患の発症に共通した新規 因子の探索を目的としている。そのため、今後はどのようなメカニズムにより脳内炎症が引き起こされているのか、また、小胞体品質管理機構の破綻による脳内炎症の惹起が精神疾患の発症にどの程度関与するのかについてさらに詳細な解析を行なう予定である。具体的には実験計画書にも記載した、マウスの中枢神経系でのDerlin-1欠損による小胞体ストレス応答機構の破綻による脳内炎症の惹起、及び精神疾患様行動に影響を与え得る分子を質量分析法や RNA-seqにより探索することで標的因子の同定を目指す。加えて、選出された因子に対する阻害抗体などをDerlin-1欠損マウスに投与することで、脳内炎症や精神疾患様の異常行動などの表現型の回復がみられるかの検討も行う予定である。
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