研究課題
血管内皮特異的Tspan18ノックアウトマウスが、正常発生における網膜血管形成遅延の表現型を示したことを受け、そのメカニズムの解明を目指したin vitro解析と、疾患との関わりについて考察するための個体表現型解析とを進めている。①Tspan18タンパク質の分子レベルの機能について知見を得るため、共免疫沈降実験によりTspan18と相互作用するタンパク質を検討した。その結果、相互作用因子としてVEGFR2のフラグメントを見出した。ここから、VEGFR2の分解あるいは輸送を介したTspan18によるVEGFシグナルの制御機構が推定される。②in vitroにおけるTspan18の機能を確認するため、Tspan18-EGFPを強制発現させたHUVECのtube formationを評価した。tube formationはTspan18の強制発現により増強された。これと対応して、Tspan18のノックダウンによってtube formationが抑制されるという知見も得ている。つまり、血管内皮細胞に発現するTspan18は、他の細胞種による仲介なしで内皮細胞自身の血管形成シグナルを調節することが明らかになった。③全身性にTspan18を欠損するマウスおよび野生型マウスにB16メラノーマ細胞を移植し、腫瘍および腫瘍血管の形成におけるTspan18の意義を検討した。その結果、野生型マウスでは構造の破綻した腫瘍血管が形成され、腫瘍組織内に出血が見られたのに対し、Tspan18欠損マウスに形成された腫瘍組織では、腫瘍血管に量の減少と形態的な正常化が見られ、腫瘍組織内の出血が観察されなかった。Tspan18の抑制による過剰なVEGFシグナルの抑制が上記表現型を引き起こした可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
Tspan18による血管形成の制御について、メカニズムと疾患関連表現型の両面について複数の知見が得られた。まず、VEGFR2フラグメントとTspan18の結合について、VEGFR2にフラグメントが生じることそのものについては過去に報告があるが、フラグメント生成がVEGFR2の機能に与える影響については知見が少ない。フラグメント生成は、VEGFR2の分解機構となるだけでなく、エンドサイトーシスを含む局在調節の機構とも共役すると考えており、今回の発見は、血管形成において最も重要なVEGFシグナルの入力機構に関する基本的なメカニズムの解明につながるものと期待される。また、Tspan18の欠損による腫瘍血管の正常化については、腫瘍サイズには顕著な変化を認めていないが、既存の抗腫瘍薬の効果は一般に血管の正常化によって増強すると期待されるため、Tspan18の抑制は腫瘍の治療につながる可能性がある。本知見の臨床的な意義については、Tspan18の作用機構を明らかにしたのちに詳細に解析することとしたい。
VEGFR2のフラグメント産生の機構およびその機能的意義を解析し、VEGFR2に対するTspan18の作用を解明することを目指す。既に報告があるフラグメント産生酵素の活性化および抑制を行いつつ、Tspan18がフラグメント産生に関与するかどうか、また、関与する場合、それがVEGFR2シグナル伝達にどのように影響するかを検証する。解析においては、VEGFR2およびフラグメントについて、リン酸化、ユビキチン化状態を確認し、局在おようび下流シグナルの活性化との関係を考察する予定である。
本年度、Tspan18の結合因子が免疫沈降法で同定されたことから、当初の計画で予定していた免疫沈降マススペクトロメトリー解析を行う必要がなくなった。さらに、次年度は同定された分子の機能解析とマウス作製に着手するため、当該助成金の使用を次年度に持ち越して使用する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Development
巻: 144(13) ページ: 2392-2401
doi: 10.1242/dev.149757. Epub 2017 Jun 2.