ベーチェット病は全身の諸臓器に急性の炎症を繰り返す原因不明の難治性炎症性疾患であり、特定の遺伝要因のもとに何らかの環境要因が関与して発症する多因子遺伝性疾患と考えられている。ベーチェット病は人種を越えてHLA(human leukocyte antigen:ヒト白血球抗原)の特定のタイプ、HLA-B*51アリルやHLA-A*26アリルと顕著に相関することが知られている。近年、我々は小胞体アミノペプチダーゼ遺伝子であるERAP1遺伝子が疾患の発症リスクに対してHLA-B*51と遺伝子間相互作用(エピスタシス)を示すことをトルコ人集団において報告した。本研究では、日本人集団ならびにトルコ人・イラン人集団を対象に、小胞体アミノペプチダーゼ遺伝子であるERAP1およびERAP2について、HLA-B*51およびHLA-A*26とのベーチェット病におけるエピスタシスを検討する。 平成29年度は1.ERAP1-ERAP2遺伝子領域の網羅的なSNP解析、2.日本人集団を対象としたHLA-AおよびHLA-Bジェノタイピング、3.ERAP1およびERAP2とMHCクラスI遺伝因子間のエピスタシスの検討を既に行い、複数のERAP1-ERAP2領域においてHLA-B*51またはHLA-A*26とエピスタシスを示すのSNPを同定するに至った。日本人集団での結果を受けて、平成30年度は、トルコ人集団およびイラン人集団を対象に日本人集団の解析で得られたMHCクラスI遺伝因子とエピスタシスを示す候補SNPの再現性を解析した。これらの解析により、候補SNPが人種を超えてMHCクラスI遺伝子と相互作用を示す可能性が示唆された。本研究によって、ベーチェット病ではMHCクラスI分子によるペプチドの抗原提示を介すると免疫応答が病態に深くかかわっており、また特定の原因ペプチドが存在する可能性が示唆された。
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