研究課題
平成30年度は、平成29年度に引き続き、転座群に特徴的なシグナル経路の抽出及び免疫組織化学染色によるvalidation studyを実施し、成果の一部を論文報告した(Tanaka A et al, Oncotarget, 2018)。具体的には東大病院で手術された胃癌症例の凍結検体を用いて実施された37例の網羅的遺伝子発現解析結果及びTCGAの胃癌RNAseqデータセット約250例を用いて、転座に有意にみられるシグナル経路を同定した。また254例の胃癌手術症例を用いた解析により、CLDN18転座は若年胃癌に集積し、若年群においてより悪性度が高いことを発見、報告した。若年群において悪性度が高くなる現象に寄与している経路を同定するため、RNAseq結果を再解析し、有意に発現変化を示す数十の関連遺伝子を同定した。今回我々は、癌患者の年齢によって発現が異なることが大腸癌などの他癌腫で報告されているCA9に注目し、その発現量を同手術例コホートを用いて免疫組織化学的に検討した。その結果、蛋白質レベルでも若年転座癌(vs高齢転座群)においてCA9が有意に高いことが判明し、CLDN18転座の下流シグナルmodulatorとしてCA9が機能している可能性が示唆された。また同時にCLDN18転座のbiomarkerとしてCLDN18蛋白質発現が使用できること、びまん型胃癌の原因遺伝子の一つであるCDH1(E-cadherin)の発現は転座群では有意に高く保たれている点を発見した。家族性胃癌の原因としても知られるCDH1の発現消失とCLDN18転座有無が相互排他的であることは、CLDN18転座が単独で強力なドライバーになりうることを示唆しており、意義深いと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
びまん型胃癌の網羅的遺伝子発現結果の解析とTCGAデータセットを用いた遺伝子発現解析から、CLDN18転座に特徴的な遺伝子発現、シグナル経路を抽出した。さらにこれら遺伝子・経路の一部についてはホルマリン固定組織標本を用いてvalidation studyを実施、その一部の成果を報告し、さらなる詳細解析に進んでいるため。
当初の計画通り、発現解析で同定した遺伝子群、シグナル経路のうち重要と考えられるものについて、ホルマリン固定組織標本及び免疫組織化学法を用いて順次validationを行いつつ、臨床病理学的因子との相関の検討、in vitroでの検討を適宜実施する予定である。
旅費及び人件費・謝金項目が当初予定より安価であったため、繰越金が生じた。次年度使用計画に大きな変更は現在のところない。
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Virchows Archiv
巻: 474(1) ページ: 39-46
10.1007/s00428-018-2476-0
Oncotarget
巻: 9(50) ページ: 29336-29350
10.18632/oncotarget.25464