研究実績の概要 |
ヒト膵腫瘍における、幽門腺型粘液の形質の変化について、粘液のコア蛋白であるMUC6に対する抗体、またその側鎖を形成する特異的な糖鎖であるα1,4-linked N-acetylglucosamine (αGlcNAc)への抗体を用いて検討を行った。膵癌は、膵管内乳頭状粘液性腫瘍(IPMN)を介した多段階癌経路、また、膵管内上皮性新生物(PanIN)を介した多段階経路の2つが特に知られているが、双方の経路において、前がん病変から浸潤癌へと進展するにつれて、側鎖であるαGlcNAcの発現が、MUC6の発現に比べて減少する頻度が高いことが分かった。さらに、αGlcNAcの発現がMUC6に比べて減弱する現象は、2つの多段階発癌経路の双方において、それぞれの経路の前がん段階から既に起きていることも明らかになり、これらの2つの分子は、膵腫瘍の病理診断における、前がん病変を指摘するための重要なマーカーになりうることが示唆された。なお、この研究成果は、第106回日本病理学会学術総会、第76回日本癌学会学術総会で発表し、さらに、cancer science誌にも投稿、受理された(CANCER SCIENCE 108(9), 1897-1902)。また、これまでの我々の研究室におけるαGlcNAcの役割を調べた研究成果ともあわせ、Review articleとして、Histochem Cell Biol誌にも掲載された(Histochem Cell Biol. in press, doi: 10.1007/s00418-018-1667-8) 現在、他臓器の幽門腺型粘液を産生する腫瘍においても、がんの多段階発癌過程におけるMUC6とαGlcNAcの発現の変化について検討している。
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