研究課題/領域番号 |
17K15645
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山田 裕一 九州大学, 医学研究院, 講師 (00597643)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 軟部腫瘍 |
研究実績の概要 |
2018年度は、前年度施行した孤立性線維性腫瘍150例に関する融合遺伝子解析結果と臨床病理学的および病理組織学的データを解析し、発生部位による融合遺伝子のパターンの偏りがあることを明らかにした一方、融合遺伝子が孤立性線維性腫瘍の生物学的特徴を左右するのではなく、発生部位によって融合遺伝子のパターンに偏りがあるだけであることを示唆する結果を得、これらの内容を論文化し、現在投稿中の状態である。 また、上記の内容を基礎として、孤立性線維性腫瘍の悪性化機構についての研究を新たに開始した。孤立性線維性腫瘍150例を組織学的に分類したところ、発生部位により組織学的パターンに偏りがあり、悪性化の頻度が異なることが明らかとなった。また、融合遺伝子のパターンとも関連が見られたが、こちらも発生部位と融合遺伝子のパターンに偏りがあるだけで、直接的な関与でない可能性を示唆する結果が得られた。 昨年までの融合遺伝子のデータに加え、胞巣状軟部肉腫50例、粘液性脂肪肉腫100例についても融合遺伝子のデータが収集され、利用可能となった。新規の融合遺伝子解析として、近年新たに報告されたグロムス腫瘍の融合遺伝子であるMIR143-NOTCHの遺伝子解析をグロムス腫瘍80例に対して施行した。同融合遺伝子は当教室の解析系では5例のみ検出されており、臨床病理学的あるいは組織病理学的なデータとの解析には不十分と思われたため、現在解析系を見直し再度遺伝子解析を施行する予定である。同様に、血管肉腫に対しても融合遺伝子解析系の構築を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに予定した骨軟部腫瘍の融合遺伝子解析は当初の対象腫瘍よりも広い範囲で展開されているため、収集されているデータは予定を上回っている状態である。具体的には、隆起性皮膚線維肉腫100例、炎症性筋線維芽細胞性腫瘍40例、滑膜肉腫100例、線維形成性小円形細胞腫瘍15例、間葉性軟骨肉腫10例、類上皮血管内皮腫10例、分類不能/未分化小円形細胞肉腫20例については大部分の症例で遺伝子解析のデータが利用可能な状態であり、さらに今年度新たに胞巣状軟部肉腫50例や粘液性脂肪肉腫100例についても利用可能な状態となっている。 昨年度までに収集された情報を利用し、孤立性線維性腫瘍の論文を執筆し投稿中の状態であり、新たに孤立性線維性腫瘍の悪性化に関する研究を開始し、こちらも論文作成の予定である。その他の腫瘍に関しても統計解析を実施して新たな知見を蓄積しており、今後論文化の予定である。 今後は、融合遺伝子に関連した免疫組織化学的マーカーを検索する方針であり、診断学的意義あるいは治療ターゲットとしての意義を明らかにする方針である。 上記の内容を踏まえ、研究の進捗はおおむね順調と考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在対象として展開されている腫瘍は、孤立性線維性腫瘍、隆起性皮膚線維肉腫、炎症性筋線維芽細胞性腫瘍、胞巣型横紋筋肉腫、胞巣型軟部肉腫、類上皮血管内皮腫、血管肉腫、滑膜肉腫、骨外粘液性軟骨肉腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、Ewing肉腫、未分化小円形細胞肉腫、軟部血管線維腫、リン酸塩尿性間葉系腫瘍、低悪性度線維粘液性肉腫、腱鞘巨細胞腫、胞巣状軟部肉腫、血管周囲類上皮細胞腫瘍、結節性筋膜炎、脂肪芽腫であり、昨年度までと同様に、新たな融合遺伝子が発見され次第、新たにこれに加えて解析を行っていく方針である。 骨軟部腫瘍のデータは整理されており、融合遺伝子のデータを得次第利用可能な状態であるため、最新の知見を利用してそれらの意義について臨床的あるいは病理組織学的な知見から解析を行うことが可能である。治療標的としての意義が明らかな融合遺伝子を発見することが目標の一つであるため、より多くの腫瘍を対象とすることが重要と考える。 また、骨軟部腫瘍においてもPD-L1といった癌免疫療法の適用が拡大されており、融合遺伝子の有無とPD-L1の発現の有無についても関連性が言われている。今後の骨軟部腫瘍治療方法の拡大のために重要な情報であると考えられるため、融合遺伝子の有無とPD-L1発現の有無についても解析を進める必要がある。
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