唾液腺悪性腫瘍は比較的稀な疾患であり、多彩な病理像を示すため、病理学的診断に苦慮する症例も多く存在する。申請者らは、唾液腺悪性腫瘍の中でも最も頻度が高い腫瘍の一つであり、長期予後不良である腺様嚢胞癌について研究を行ってきた。 申請者らは、唾液腺腺様嚢胞癌においてMYB遺伝子と関連があるMYC遺伝子に注目し、前年度の研究においてMYC蛋白の高発現がMYB-NFIB融合遺伝子と相関し、遠隔転移や腫瘍再発のリスクを予測する予後因子である可能性が考えられた。これにより、MYC蛋白の過剰発現がみられた症例に対し、FISH法によるMYC遺伝子の増幅の有無を検討したが、MYC蛋白とMYC遺伝子増幅との間に有意な相関は得られなかった。 また、申請者らは多施設共同研究事務局として約200例の唾液腺腺様嚢胞癌を蒐集した。申請者はこれらの症例に対する次世代シーケンサーによる網羅的解析を行うための前段階として、遺伝子異常が多く報告されている唾液腺導管癌を対象に、次世代シーケンサー解析を行った。対象症例は名古屋市立大学病院で手術された35例の唾液腺導管癌であり、パラフィン包埋切片を用いて施行した。その結果、ERBB4:12例、NPM1:10例、TP53:8例、RET:8例、CSF1R:6例、FLT3:6例、HRAS:5例に遺伝子異常が見られた。これらの結果における臨床病理学的意義は現在解析中である。 今後、唾液腺導管癌とともに、唾液腺腺様嚢胞癌においても、更なる研究を続けていく予定である。
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