研究実績の概要 |
前年度までの研究結果から、このまま研究を進めるのは困難であったため、本来の研究目的を達成するために、大幅な研究方針の変更を行った。まずは、膠芽腫における低酸素環境下で発現の亢進する分子の検索を免疫組織学的に行った。その結果、S100A4、Nestin、α-SMA、HIF-1α、及びMyosin9が候補に挙がった。広範な壊死部および偽削除配列を示す周囲の近傍の低酸素領域の膠芽腫細胞は、非壊死性腫瘍部に比べて、これらの分子の高発現が認められた。がん幹細胞化に関与するS100A4発現は、Nestin,HIF-1α,およびMyosin9と正の相関性を示した。一般に、S100A4はMyosin9と会合してがん幹細胞化に寄与することが知られている。Nestinはがん幹細胞マーカーであることから、低酸素環境下の膠芽腫細胞で、S100A4/Myosin9系によりがん幹細胞化が促進されていることが想定された。さらに、in situ PLA法で広範な壊死部周囲の膠芽腫細胞にS100A4/Myosin9の結合が高頻度に認められることを確認した。CoCl2による擬似低酸素条件下で、S100A4およびNestinの発現が亢進した。また、S100A4とMyosin9との結合性も亢進し、臨床検体で得られた結果との整合性が得られた。 以上から、低酸素環境では膠芽腫細胞内でS100A4発現が亢進して、Myosin9との会合等を介して、がん幹細胞化が生じる可能性を得た。
|