甲状腺に発生する濾胞癌や分化度の低い癌は、乳頭癌に比べて予後不良で、RAS遺伝子の変異を特徴とする。一方で甲状腺癌は、ポリオーマ属ウイルス感染との関係が指摘されてきた。研究の開始以前、ポリオーマ属ウイルスSV40感染が、甲状腺癌の発生に寄与するとの直接的なエビデンスはなく、活性化したRasシグナルとSV40ウイルスのLarge T抗原(SVLT)が協働的に働いて、甲状腺上皮細胞の増殖を促すなどの背景メカニズムは明らかにされていなかった。 代表者はOncogenic なKrasG12D遺伝子とSVLT抗原遺伝子を臓器特異的に発現させられる遺伝子改変マウスを作製し、SVLTが活性化したRasシグナルと協働的に働いて、細胞増殖を強く促すメカニズムを検討した。これら分子をマウスの甲状腺特異的に発現させた発癌実験によって、両遺伝子の発現が、分化度の低い甲状腺癌の発生をもたらすとの直接的なエビデンスの取得に至っている。さらに、作成した遺伝子改変マウスより甲状腺がん細胞株と不死化甲状腺濾胞上皮細胞株を樹立し、三次元培養で、甲状腺上皮に特徴的な濾胞構造を再現させることにも成功している。これらを用いて、in vitroでの分化・増殖の検討を行ったことにより、活性化したRasシグナルとSVLTが増殖をプロモートしているとの、生物学的特性の理解につながった。 そして以上の研究成果は、新年度から始まる研究①~③の出発点となった。①より強力なプロモータ支配下でSVLTを発現させた遺伝子改変マウスの作製、②予後不良となる甲状腺癌の治療標的探索、③次世代シークエンサーを用いたヒト臨床検体におけるSVLTゲノムの探索で、これらにより、甲状腺に発生する予後不良の癌の克服へと向かう。
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