甲状腺に発生する濾胞がんや分化度の低いがんは予後不良で、RASシグナルの変異を特徴とする。一方で甲状腺がんは、ポリオーマ属ウイルス感染との関係が指摘されてきたが、研究の開始以前、ポリオーマ属ウイルスSV40感染が、甲状腺がんの発生に寄与するとの直接的なエビデンスはなかった。また、活性化したRASシグナルとSV40ウイルスのLarge T抗原(TAg)が協働的に働いて、甲状腺上皮細胞の増殖を促すなどの背景メカニズムは不明であった。本研究では、マウス甲状腺に実際にRasの変異とTAgの発現を再現し、両現象が分化度の低い甲状腺がんの発症と進展を促進する証拠を獲得できた点で学術的・社会的に意義がある。
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