研究課題
毛包の加齢変化を促進する因子とその内的因子の同定に向けた研究を行っている。昨年までに肥満が脱毛を促進することがわかり、microarrayによる遺伝子発現解析などから、肥満によって毛包幹細胞内の様々な因子の変化が起きることがわかった。特に顕著な変化としては、1)表皮への分化促進経路の活性化、2)ある種の炎症性シグナルの亢進、3)毛包幹細胞の発生に重要とされている経路の抑制などがわかった。1)については加齢でも見られる重要な経路であり、2)と3)は肥満特有のものと考えられた。2)と3)については変異マウスを用いた実験により、脱毛の促進に重要であることが示された。皮膚の炎症の亢進には様々な細胞集団が関係していると考えられるが、高脂肪食負荷で特に顕著に変化するのはT細胞集団の増大であった。特に真皮に存在するT細胞は高脂肪食の3か月負荷により2倍程度まで上昇することがわかり、毛包幹細胞内の炎症シグナルの亢進に大きく寄与していることが示唆された。円形脱毛症などにおいては、T細胞が毛包内に浸潤し可逆的な脱毛症を引き起こすことがわかっているが、高脂肪食負荷ではそのような浸潤は見られず、また毛包幹細胞の枯渇がみられることから不可逆的な脱毛が起きていると考えられた。今後は変異マウスの更なる解析や免疫細胞内の内的因子の変化などを調べ、皮膚全体の炎症シグナルの亢進から毛包幹細胞の枯渇、脱毛に至る経路を詳細に解析していく。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、30年度までに脱毛を促進する環境要因の同定から遺伝子発現解析までを行う予定であったが、変異マウスの解析まで進んでいる。これらのマウスは遺伝子発現解析で示唆された原因を強く支持する結果になっており、脱毛を促進する因子とそのメカニズム解明に大きな進展をもたらせた。また当初予定になかった皮膚におけるほかの細胞集団の解析も進んでおり、特に炎症亢進における組織間ネットワークの役割についても知見を得ることができた。
これまでに肥満が脱毛を促進すること、その内的遺伝子の同定、さらに変異マウスにおける確認までが終了しており、研究は最終段階である。今後は周辺組織の変化をさらに解析し、組織間ネットワークによる毛包への影響を解析していき、全容解明へとつなげていく。またATAC-seqによるクロマチン構造の変化も現在解析しており、遺伝子発現以外の調整についても明らかにしていきたい。肥満は様々な因子が一部相互依存的に変化しており、これらの中から脱毛を促進する因子を同定するため、初期での変化の解析も行っていく。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Nature
巻: 568(7752) ページ: 344-350
10.1038/s41586-019-1085-7