研究実績の概要 |
昨年度までにMontelukast(Mont)がハムスター膵癌モデルにおいて膵発癌抑制効果が見られる事が分かった。本年度は早期膵発癌における抑制効果の機序を調べるため、BOP10mg/kgの4回隔日皮下投与後、4週間高脂肪食(脂質14%)を与えた個体(n=3)とMont 0.4mg/kg/day飲水投与した個体(n=3)から膵組織を採取し、膵全体のmRNA変化をマイクロアレイにかけて調べた。その結果をRT-PCRによって有意に低下した遺伝子としてSmad3, S100Bなどが候補として挙がってきた。さらに、昨年度実施したハムスターの膵臓において、免疫染色でPanIN2内でのSmad3の陽性率はControl群に対し、Mont 0.1, 0.2, 0.4mg/kg投与群いずれにおいても有意に低下していた。 また、昨年度のin vitroの実験において膵癌細胞でのMontの膵癌抑制効果が低いことが分かり、さらにMontの作用する受容体であるCysLT1受容体の発現を見たところ、ほとんどの膵癌細胞株でCysLT1Rの発現はみられなかた。そのため、PanIN病変の周囲や膵癌細胞内に多く見られる膵星細胞(PSC)に着目して実験を行った。PSCの細胞に低容量(0-10uM)のMontを処置したが、増殖能に変化は見られなかった。一方でPSCに低容量のMontを48時間処置後培地を交換し、その上清を濃縮したcondition mediumをPanc1細胞に48時間処置すると、増殖抑制効果が見られた。 以上の事から、MontはPSCに作用してPSCから分泌される物質を介して膵癌細胞の増殖抑制に作用することが示唆された。今後はSmad3の経路やPSCから分泌される物質を含めた詳細な経路の解析を引き続き行っていく予定である。
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