研究課題/領域番号 |
17K15672
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
増井 憲太 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (60747682)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 悪性脳腫瘍 / mTORC2 / 中心炭素代謝 / 鉄代謝 / エピジェネティクス / ヒストンアセチル化 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヒトの腫瘍の中でも最も悪性度が高い脳腫瘍である膠芽腫 (グリオブラストーマ) において、鉄代謝を始めとする微量元素代謝の制御機構を、ヒト臨床標本を用いることで明らかにしようとするものである。特に、われわれがこれまでに明らかにしてきた、EGFR-mTORC2経路により制御される、中心炭素代謝の活性化 (がん代謝) との関連に着目することで解明を試みる。本研究により、未だ有効な治療法の少ない膠芽腫の治療開発につながりうる新たな病態を明らかにすることを最終的な目的としている。 本年度は、剖検および外科手術で得られた膠芽腫の検体を用いた解析により、腫瘍組織内では正常脳組織と比較し、鉄代謝関連分子 (フェリチン) および鉄イオン (Fe3+) の発現が有意に増加していること、さらには、mTORC2活性化の状態とこれら鉄代謝関連分子の発現が相関関係にあることを、定量的な免疫組織化学的解析により証明した。また、膠芽腫の細胞株を用いた生化学的解析により、この鉄代謝関連分子の発現がmTORC2により制御されていることを明らかとし、その機序がエピジェネティクス (ヒストンアセチル化) を介した制御であることを証明した。 これらは、悪性脳腫瘍において、われわれが着目するmTORC2シグナルが鉄代謝を制御すると同時に、中心炭素代謝と微量元素代謝の間にエピジェネティクスを介するクロストークが存在する可能性を示す結果である。また、将来的な治療戦略を考える際に、膠芽腫におけるmTORC2の活性化や鉄代謝関連分子の発現状況を解析する必要性も提起する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、本研究で最も重要と位置づけられる、ヒト悪性脳腫瘍標本における鉄代謝関連分子の発現状況および鉄イオンの存在を評価し、実際の臨床検体における鉄代謝活性化の状態およびmTORC2との相関を、病理組織学的に解明することができた。また、生化学的な解析により、mTORC2による鉄代謝の制御は、エピジェネティクス変化を介する新規の機構であることを明らかにすることができた。さらには現在、膠芽腫細胞株を使用して、活性化された鉄代謝がもたらす表現型に関する機能実験にすでに取り組んでおり、研究全体としては予定よりも早く進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、悪性脳腫瘍におけるmTORC2シグナルが、エピジェネティクス変化を介して微量元素代謝 (鉄代謝) を制御するという新規の病態を明らかとしてきた。そこで、鉄代謝関連分子の発現が亢進することで、がん細胞が獲得する表現型についての機能的実験 (鉄取り込みおよびトランスフェリン分泌の測定、フェリチン依存的遺伝子発現の検索など) を行うことで、実際に治療標的となりうる分子の検討が可能になると考えられる。また、悪性脳腫瘍における、エピジェネティクス制御および鉄代謝活性の治療的意義を検討する。すなわち、mTORC2異常のある腫瘍においては、エピジェネティクス変化 (ヒストンアセチル化) および鉄代謝が促進される結果、具体的にどのような遺伝子群が影響をうけ、それがどのように腫瘍化促進および治療抵抗性に関与しているのかという点について、細胞培養系での解析および臨床応用に向けた動物モデル作成を試みることで検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品を注文予定であったが、支払額として不足していたため、翌年度分と合わせて使用することとした。
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