研究課題/領域番号 |
17K15674
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
森 泰三 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 研究員 (40625307)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 耐糖能制御 / 2型糖尿病 / サイトカイン / 脂肪内炎症 |
研究実績の概要 |
IL-15は主に上皮、脂肪細胞、免疫細胞から産生され、NK細胞やCD8陽性T細胞などの免疫系細胞の発生や維持に重要なサイトカインである。しかしながら、定常状態の耐糖能制御や2 型糖尿病における生理的意義は不明であった。我々はIL-15欠損マウスを用いて解析を行ったところ、定常状態および肥満状態においてIL-15欠損マウスの血糖値が野生型と比べて低く保たれる事を見出した。本研究では耐糖能の制御機構においてIL-15がどのような役割を担っているのかを明らかにする事、また肥満の初期においていかにして脂肪免疫細胞の増殖が誘導されるかに関してアダプタータンパク質Lnk/sh2b3 (Lnk)を中心に明らかにする事を目的とした。IL-15欠損マウスを用いて継続して解析を行ったところ、定常状態においてIL-15欠損マウスのインスリン産生能および抵抗性は野生型と変わらないものの、ピルビン酸負荷時において野生型と比較して有意に血糖の上昇が抑制されている事を明らかにした。一方で、IL-15依存的細胞集団の関与を明らかにするために、IL-15欠損マウスをドナーとした骨髄移植マウスを用いて糖負荷試験を行ったところ、野生型を移植したマウスと比較して変化は認められなかった。 脂肪内免疫細胞の増殖がいかに誘導されるかに関しては、Lnkの発現をモニターできるノックインマウス由来の脾臓細胞と脂肪組織存在下/非存在下で共培養しLnkの発現低下が生じるかを検討した。種々の免疫細胞におけるLnk発現を調べたところ、NK細胞は脂肪組織存在下条件において非存在下条件と比較してLnk発現が減少する事を見出した。また、この現象はIL-15の添加によってNK細胞の生存、維持が保たれることによって安定化される事を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究当初は定常状態におけるIL-15欠損マウスの血糖値は野生型マウスと比較して低く保たれることより、脂肪内におけるIL-15依存的免疫細胞が脂肪内における炎症および恒常性を調節し、耐糖能を制御している事を予想していた。しかしながら骨髄移植による検討の結果、IL-15欠損マウスをドナーとしたマウスは耐糖能異常を呈さなかった。一方で、IL-15欠損マウスはピルビン酸負荷時に野生型と比較して有意に血糖値の上昇が抑制された。この結果はIL-15が脂肪、肝臓、筋肉などの代謝組織に直接作用し、ピルビン酸からの糖新生を制御している可能性を示唆するものである。当初の予想とは異なる結果であったが、本結果からの研究計画について計画書に記載しており、今後はどのようなメカニズムで直接的に作用しているかについて検討を行っていく予定である。 脂肪内免疫細胞の増殖がいかに誘導されるかに関しては、in vitroにおいて脂肪組織との共培養がNK細胞におけるLnk発現減少を誘導する事を示した。以前我々は肥満状態における増殖時のNK細胞はLnkの発現が減少することをin vivoにおいて示してきたが、本研究結果と合わせて考えるとこの現象は脂肪細胞との相互作用によって誘導する可能性が高いことが予想された。今後は研究計画に従い、どのような因子が発現変化に関わるかを同定して行く予定である。以上の結果より、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの検討によりIL-15が耐糖能制御において免疫細胞を介さず、直接的に働く事を示してきた。今後はどのようなメカニズムで作用しているのかを調べて行く予定である。血清中におけるアディポサイトカインの量をELISAで定量する。酸素消費量およびエネルギー消費量を測定し、脂肪細胞における熱産生や代謝に関連する遺伝子の発現を解析する。また、IL-15の下流シグナルであるJAK-STAT経路を阻害する事で肥満マウスの耐糖能が制御できるかどうかを検討する予定であり、JAKインヒビターを封入したカプセルを肥満マウスに埋め込み一定量が作用するシステムを用いて経時的に動態を解析していく。 造血時においてLnkの発現が低下し幹細胞の増殖を促進させる機構があるように、Lnkは高脂肪食負荷時に脂肪内の免疫細胞が増大する際の制御因子となっていることが考えられる。この機構が明らかになれば、肥満による脂肪内炎症を制御できるかもしれない。本研究によって、脂肪細胞由来の因子によってNK細胞におけるLnkの発現低下を誘導することが示された。今後は脂肪細胞の培養上清と共培養をおこない、液性因子が発現の変動を誘導しているのか脂肪細胞との相互作用なのかを判断する。さらにどのような遺伝子群が変動しているかについて網羅的遺伝子解析を行う。液性因子の影響と判断できた場合、培養上清をアミノ酸シーケンスあるいはHPLC等で発現を変動させる因子を同定し、in vivoにおいて再現されるかについて解析して行く予定である。
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