研究課題/領域番号 |
17K15677
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
伴戸 寛徳 大阪大学, 微生物病研究所, 特任研究員(常勤) (60724367)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | トキソプラズマ / IDO1 / TgIST / GRA15 |
研究実績の概要 |
トキソプラズマは宿主免疫系を抑制することで多種多様な細胞に感染し、ヒトを含む多くの生物に不顕性感染することが知られている。これまでに、モデル生物内における宿主ー病原体相互作用は徐々に明らかとなりつつあるが、ヒトの細胞内における病原体排除機構および免疫回避機構は未だ明らかとなっていない。そこで本研究はまず、ヒトの細胞内においてインターフェロンγ(IFNγ)依存的な抗トキソプラズマに関与する宿主因子とその詳細な排除機構の解明を行う。つぎに、それらの回避機構に関与するエフェクター分子の同定とその作用機序を寄生虫免疫学的手法により解明することで、ヒトの細胞における IFNγ依存的な抗トキソプラズマ応答を阻害する病原性メカニズムを包括的に理解することとした。 平成29年度はまず、様々な遺伝子欠損ヒト細胞を作成し、これらを用いて抗トキソプラズマ応答を検討した。その結果、ヒト細胞におけるIFNγ依存的な抗トキソプラズマ応答には、Indoleamine 2,3-dioxygenase 1 (IDO1)が重要な役割を果たしていることを明らかとした。そこで次に、ヒト細胞におけるIDO1 依存的な抗トキソプラズマ応答を抑制するエフェクター分子の探索を行った。その結果、マウスの細胞においてSTAT1の転写抑制因子として発見されたTgISTが、ヒト細胞においてはIDO1の発現を抑制し、直接的にIFNγ依存的な免疫応答を阻害することを見出した。さらに、これまでは存在意義が全く不明であったエフェクター分子であるGRA15は、ヒト細胞においては間接的にIDO1依存的な免疫応答を阻害していることを見出した。以上のことから、トキソプラズマがヒト細胞において、複数のエフェクター分子を用いてIDO1によるIFNγ依存的な抗原虫応答を抑制している新規の病原性機構が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インターフェロンγ(IFNγ)はマウスでもヒトでも抗トキソプラズマ免疫応答に重要であるが、トキソプラズマがマウスで標的とするIRGやGBPなどのIFNγ誘導性GTPaseはヒトで抗トキソプラズマ応答に重要ではなく、IFNγ誘導性GTPaseとは別の標的が存在することが示唆されていた。平成29年度は、マウスにおいてIFNγ依存的な抗トキソプラズマ応答に必須として知られるオートファジー必須蛋白質の一つであるATG16L1や、近年発見された新規IDOホモログIDO2ではなく、IDO1が様々なヒト細胞におけるIFNγ依存的な抗トキソプラズマ応答に必須の分子であることを明らかとした。また、ヒト細胞においてIDO1 依存的な抗トキソプラズマ応答を抑制するエフェクター分子としてTgISTとGRA15を見出した。以上の結果から、本研究は順調に進展していると考えられる。本年度の成果の中でも、これまで宿主細胞内生存戦略に果たす役割が全く不明な分子であったGRA15の新規機能を見出し、さらに、今回見出した現象は、単一細胞を用いた系よりも生体内に近い状態である共培養系や、初代ヒト培養細胞においても同様の現象が確認された点は特に重要な発見だと考えられる。なぜならばこれらの結果は、トキソプラズマだけではなく細菌感染時にも、宿主免疫応答に重要な役割を果たすことが知られているIDO1の作用が、トキソプラズマ感染によって阻害される可能性を示唆しており、トキソプラズマ症の発症機構や重複感染による様々な病態発症機構の解明および新規治療法の確立に繋がる可能性も考えられるため、医学的にも重要な知見だと考えられるからである。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の成果から、トキソプラズマはヒト単球由来細胞に感染すると炎症性サイトカインの一種であるIL-1βの産生を誘導すること、また、ヒト肝細胞においてはIFNγとIL-1βで共刺激することで、IDO1依存的な抗トキソプラズマ応答が抑制されることが明らかとなった。さらに、IL-1β によってIDO1の発現が転写レベルおよびタンパクレベルで抑制されることも明らかとした。そこで今後はまず、IL-1βによるIDO1の機能阻害機構を明らかとするために、IFNγ単独刺激とIFNγとIL-1βの共刺激による宿主細胞の遺伝子発現をRNA-seqによって網羅的に比較解析する。さらに、野生型またはGRA15欠損トキソプラズマ感染時の遺伝子発現も同様の方法で解析する。これらの解析結果から予想されるIDO1機能阻害に関わる遺伝子を欠損させた細胞をCRISPR/Cas9ゲノム編集法で作成し、IDO1に及ぼす影響を、遺伝子発現レベル、タンパクレベルで解析する。これらによって、IL-1βおよび病原性因子によるIDO1機能阻害機構を明らかにしたのち、いくつかのヒト細胞の共培養の系を用いることで、ヒトの細胞におけるIFNγ依存的な抗トキソプラズマ応答を阻害する病原性メカニズムを包括的に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、予想外に病原性因子の新規機能の発見があり、これらの現象の真偽の確定および一般性の検証に重点を置いたため、本年度は当初の計画よりも予算を必要としなかった。しかし、本年度に発見した新規の病原性機構解析を遂行するためには平成30年度には予定よりも予算を必要とすることが考えられる。具体的には、遺伝学的実験、分子生物学的実験にしようする試薬、網羅的な探索、初代ヒト培養細胞の購入等に必要とするため、これらに使用する予定である。
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