研究課題/領域番号 |
17K15681
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
保科 斉生 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (60648830)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | トキソプラズマ / 血清学的診断法 / Sabin-Feldman dye test |
研究実績の概要 |
本研究の基礎となる、トキソプラズマ感染症の血清学的診断方法、Sabin-Feldman Dye Test(SFDT)の安定した実施にあたり、検査に必要な環境を整備した。具体的には、検査に必要なアクセサリーファクター(一定の条件を満たすトキソプラズマ未感染者血清・血漿)を十分量確保した。これには、日本赤十字社の事業「献血血液の研究開発等での使用に関する指針に基づく公募」を介して購入した血漿の、アクセサリーファクタースクリーニングを実施し、本研究に必要な検体量の確保に成功した。 上記準備が整った上で、SFDTと新規検査Toxoplasma Killing Observation Test(TOKIOテスト)の比較を実施した。まず、オオシスト(緩徐分裂虫体)を接種したマイクロミニピッグ4頭を用いた感染実験を行い、感染から6ヶ月間にわたり血液検体の採取した。つづいて、得られた血清検体を用いて、抗トキソプラズマ抗体力価の推移をSFDTとTOKIOテスト双方で評価し、その結果を比較した。各個体での抗体推移は多様であったものの、SFDTとTOKIOテストの結果は概ね相関する結果が得られた。この動物実験における結果は、本研究におけるコンセプトの裏付けとなり、ヒトを対象とした同測定法を実施する上での基軸となった。 日本人におけるトキソプラズマ感染の頻度とリスク因子の研究は、先天性トキソプラズマ症が問題となる女性を対象とした研究が多い。一方、トキソプラズマ感染が重症化する恐れのあるHIV感染者の疫学については情報が限られている。我々は東京慈恵会医科大学附属病院に通院するHIV患者400人を対象に、トキソプラズマの感染頻度を調べ、同時にリスク因子についてのアンケート調査を実施した。得られた検体と情報については現在解析中であり、今後TOKIOテストでの評価と比較を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Sabin-Feldman dye test (SFDT)の安定した実施にあたり、アクセサリーファクターの確保は絶対的に必要な条件である。本研究以前のアクセサリーファクターは、先行臨床研究で得られた血清をスクリーニングし適合血清をアクセサリーファクターとして使用していた(東京慈恵会医科大学倫理委員会承認済み。研究番号27-024(7908))。しかし、被験検体数の増加に伴い十分なアクセサリーファクター量が確保できず、日本赤十字社から血漿の提供を受けた。新鮮凍結血漿のスクリーニング作業と、それを用いた検査再現性確認のため時間を要した。 マイクロミニピッグを用いた感染実験では、感染から6ヶ月間の感染期間を設け、その間の抗体価の推移を評価したため、実験自体に時間を要した。6ヶ月間の期間設定の理油としては、先天性トキソプラズマ症における妊婦の血清評価を想定した。先天性トキソプラズマ症は妊娠中の初感染が契機となるため、診断には感染時期の特定が重要な情報となる。マイクロミニピッグとヒトを直接比較することはできないが、抗体の推移を評価することで、先天性トキソプラズマ症の診断への応用を期待し、6ヶ月間の経時的評価を実施した。 HIV感染者を対象とした臨床研究では、400人の血清学的評価、アンケート調査の集計・解析にも時間を要した。特に、血清学的評価では、約400人分の血清に対しSFDTを実施する必要があり、その作業には相当の時間を要す見込みである。現時点では、抗トキソプラズマIgG陽性者におけるSFDTとTOKIOテストが実施済みであり、今後は抗トキソプラズマIgG陰性者の評価が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
現時点では達成できていない、HIV感染者におけるSFDTとTOKIOテストの比較解析を予定している。結果が判明することで抗トキソプラズマIgG抗体(ELISA法)、SFDT、 TOKIOテストの検査精度(感度・特異度)が明らかになる。 また、SFDTでは従来のインタクトなタキゾイト(急速分裂虫体)を検査に使用するが、TOKIOテストでは代わりにGFP発現タキゾイトを用い、被験血清との反応後のGFP活性を評価する。そのメカニズムは依然不明であるが、その機序を解明することで新たな検査方法への応用が期待できる。具体的には、TOKIOテストに用いた虫体を反応前後で蛍光抗体染色し、共焦点顕微鏡でその構造を観察する。タキゾイト傷害能を有す抗体を含有する被験血清が、どのように虫体を障害するのか、構造的変化を観察する。今後はその知見から、より簡便で検査精度の高い検査方法を立案する。 さらに新たな検査方法の候補として、ルシフェラーゼ発現タキゾイトを用いた、血清学的検査方法の開発を予定している。虫体が発現するルシフェラーゼ活性と被験検体との反応を、発光量の定量により測定する検査方法であり、SFDT、TOKIOテストと比較して、より簡便で定量的な検査方法となることが予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
基礎実験と臨床研究に想定外の時間がかかり、想定していた研究の一部を実施するに至らず、次年度使用額が生じた。
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