国内で実施不能であったトキソプラズマの血清学的検査、Sabin-Feldman Dye Test(SFDT)の再開を試み、また日本赤十字社が実施する献血血液の公募事業で譲渡された血漿検体をスクリーニングした結果、十分量のアクセサリーファクター(一部の健常者が保有している補体成分で、SFDTの実施に不可欠)が確保可能になり、多検体の処理が可能になった。 SFDTの実装を基礎に、GFP発現タキゾイトを用いた改良SFDTを開発し検証した。具体的には①野生エゾジカ、②実験動物(マイクロミニピッグ)、③HIV感染患者の血清を対象とし、新検査法の特徴や感度・得意度を明らかにした。 ①研究期間中に確立した方法でSFDT・改良SFDTを実施し、野生エゾジカ80検体を評価した。新旧の検査結果は完全に一致し(定量結果は一部乖離あり)、改良SFDTの有用性が示された。同時に対象とした個体の約半数がトキソプラズマに感染しているという新たな知見を得て、これを報告した。 ②マイクロミニピッグ4頭を対象にブラディゾイト(緩徐分裂虫体)の経口感染実験を行い、6ヶ月間に渡り抗体推移を測定した。抗体が上昇しなかった1頭を除き、3頭で抗体価の上昇とその推移を観察できた。新旧の検査結果は概ね一致したが、期待していた抗体半減期については個体差が大きく、単回検査による活動期感染の判別は困難であるとの結果が得られた。 ③トキソプラズマ脳炎のリスク群であるHIV陽性者を対象に、疫学調査を実施した。研究には約400人のHIV陽性者が参加し、抗体保有率、感染に関連する因子を明らかにした。抗体保有率は8.3%と、国外の報告と比較すると低い傾向、既存の報告でリスクとされた、猫の飼育歴・調理不十分な食肉の摂取歴との関連はなかった。一方、北海道居住歴を有す群で有意に高い抗体保有率が認められ、新たな知見として報告する予定である。
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