本研究では、マダニによる病原体の維持機構を分子レベルで解明することを最終目標に、まずはマダニ媒介性感染症病原体であり、遺伝子組み換えが可能なボレリア菌を用い、マダニ体内における維持機構を明らかにすることを目的としている。具体的には、マダニ媒介性病原体の1つである回帰熱群ボレリア菌のゲノム上に特異的に見出され、人工培地中と比較し、マダニ感染時に発現が上昇している複数の遺伝子群の機能解析を行うことを目的としている。具体的な研究手法として、吸血前のマダニの全身に感染していることが明らかとなっている回帰熱群ボレリア菌と、腸管に限局して感染しているライム病群ボレリア菌を網羅的に比較し、回帰熱群ボレリアに特異的に見出される計21遺伝子をライム病群ボレリア菌であるB.burgdorferi B31株に導入し、マダニ体内での生存の有無を解析している。 昨年度までのin vivoスクリーニングにより抽出された5遺伝子について、1つのプロモーターの下流に5遺伝子全てを導入した組換体および、そこから1遺伝子ずつ減らした組換体を作成し、マダニへの接種実験を行った。その結果、5遺伝子全てを入れた組換体で多少生存する個体はいたものの、優位な差とはならず、逆に導入遺伝子数が少ない組換体の方が生存個体が多い傾向がみられた。これは、多数の遺伝子導入により、菌の増殖が遅くなっている可能性と、プロモーターが1つであったため、下流の遺伝子発現が弱かった可能性が考えられた。 このため、上記実験で対象とした5遺伝子のうち3遺伝子と、さらに3遺伝子を追加した計6遺伝子についてプロモーターの数を増やした上でプラスミドの作成および組換体の作成を行った。今後、これら組換体の導入遺伝子の確認を行い、感染実験を実施する予定である。
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