研究課題/領域番号 |
17K15686
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐藤 光彦 九州大学, 医学研究院, 学術研究員 (30783013)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 腸管出血性大腸菌 / GWAS / 志賀毒素 / O121 |
研究実績の概要 |
腸管出血性大腸菌(EHEC)は出血性大腸炎に加えて、溶血性尿毒素症症候群(HUS)や脳症などの重篤な合併症を引き起こす。EHECの最も重要な病原因子の一つは志賀毒素(Stx)である。StxはStx1とStx2に分類され、それぞれに数種類のバリアントが存在するが、いずれもファージにコードされている。EHEC O121ではStx2ファージの遺伝的多様性が非常に低いにも関わらずStx産生量には顕著なバリエーションが見られる。そのため、Stx2ファージ以外の宿主菌ゲノムによってStx産生量が調節されている可能性がある。そこで大腸菌O121におけるStx産生調節メカニズムを解明するために、ゲノムワイド関連解析(GWAS)によって宿主菌ゲノムからStx産生量を調節する遺伝子及び変異を推定する。 本年度は(1)バクテリア用のGWASパイプラインの構築と,(2)O121のSTX2産生量の測定を実施した.一倍体でゲノムサイズが小さいというバクテリアのゲノム特性を考慮した結果,k-merの有無を用いることで,大腸菌でも十分現実的な計算時間で表現型との関連を検出することが可能となった.また,リファレンスゲノムとアノテーション情報から,そのk-merがどの遺伝子に位置するか,またはどの遺伝子の周辺に位置するかを簡便に解析できるパイプラインを構築した.また,ゲノムシークエンスが完了している大腸菌O121の59株に対して,増殖速度の異なる株であってもファージが完全にインダクションされることで再現性のある安定した産生量が測定できるように条件を検討し,Stx2産生量をサンドイッチELISAで測定した.その結果,血清型の同じ株であってもStx2産生量には大きなばらつきがあることが明らかとなった..
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
GWASに必要な表現型データであるStx2産生量は,従来の条件では株ごとに異なる増殖速度などわずかな条件によってファージが完全にインダクションされないために,不安定なデータとなっていることがわかった.そのため,再現性のとれる安定した条件を丁寧に検討して再度Stx2産生量を測定した.これによって表現型データと遺伝子型データが揃ったため,GWASが実行可能な条件が整った.
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今後の研究の推進方策 |
日本およびベルギーで分離された計59株のO121のゲノム配列とStx2産生量から,GWASよってStx2産生量と関連のある遺伝多型を推定し,その中からStx2産生調節遺伝子の候補となりうるものを挙げる.GWASによって推定された候補は偽陽性を含みうるため,実験的な検証によってStx2産生調節遺伝子を特定する.候補となる遺伝多型に対して,Stx2産生量の高いアリルを産生量の低いのO121株へ導入することによってStx2産生量が増加し,かつStx2産生量の低いアリルを産生量の高い株へ導入することによってStx2産生量が減少するという増減を示す遺伝多型をStx2産生調節遺伝子として特定する. そして,特定した遺伝子によるStx2産生量調節メカニズムがStx2を産生するその他の株や血清型でも同様に産生調節に関わっているかを検討する.O157で複数株のゲノムデータおよびStx2産生量を所有している.O121で特定した遺伝子における遺伝多型と同様の多型が存在するか,その遺伝子型がStx2産生量と関連するかを解析することで,Stx2産生量調節メカニズムの一般性を検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
Stx2産生量を改めて測定する必要が生じたため,計画が僅かに遅れている.これによってGWASに必要な計算機の購入や遺伝子導入実験用の試薬の購入が持ち越しとなった.次年度にはこれらを購入して早急に進めることで予定通りの成果が得られると期待できる.
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