出血性大腸炎だけでなく溶血性尿素毒素症症候群(HUS)、脳症など重篤な合併症を引き起こす腸管出血性大腸菌(EHEC)の血清型の一つであるO121において、GWASを用いてファージ上に位置する志賀毒素の産生量を制御する領域を染色体ゲノムから検出し、重篤な症状を引き起こすポテンシャルとなるような要因を推定することを試みた。昨年度のStx2産生量の測定で多様であることが示された表現型に対して、昨年度構築した、表現型と相関のあるk-merを検出するGWASパイプラインを用いた。幅広い遺伝子を探索しつつ偽陽性を排除するため複数の閾値で試したところ、もっとも厳しい基準では47のk-merが得られた。検出されたk-merすべてに対してアノテーションを行い、それらの機能を推定した。しかしながら、それらのk-merをもつ遺伝子は外来性因子などであり、Stx2産生量の制御に関わる染色体ゲノムには当てはまらないものであった。次に厳しい基準ではStx2産生量と相関のあったk-merは242検出された。これらのk-merがもつ遺伝子の機能を調べたところ、同様に外来性因子がほとんどであり、特にファージを構成する遺伝子が多く含まれていた。現在のデータセットとパイプラインでは、染色体ゲノムからはStx2産生量を制御する領域を見つけることはできなかったが、一方でStx2の産生量にStx2ファージ以外のファージが関わっている可能性が示唆された。今後は、サンプル数を増やすことでより精度の高いGWASを行っていく。
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