研究課題
緑膿菌は、自身の病原性をクオラムセンシング(QS)と名付けられた細胞間情報伝達機構により制御している。本菌のQSには、転写制御因子として3種のアシルホモセリンラクトン(AHL)レセプター(LasR, RhlR, QscR)が関与することが明らかとなっているが、RhlRとQscRの解析はLasRに比べて大きく遅れており、その性質や機能には不明な点が多い。本研究では、RhlRの発現・精製と分子機能解析、および、QscRの普遍性と感染症における役割の検証を行うことを主目的としている。一昨年度の取り組みにより、N末端を数残基分切り縮めたRhlRは、大腸菌細胞内において高い可溶性/安定性を示すことが明らかとなった。そこで、昨年度は、大腸菌無細胞抽出液からのN末端短縮型RhlRの単離・精製に取り組んだ。結果、硫安沈殿による分画と複数のカラムクロマトグラフィーを組み合わせることにより、本タンパク質を高純度に精製することに成功した。次に、本精製標品を用いて、ゲルシフトアッセイによるDNA結合活性の検出を試みた。しかし、反応液へのAHLの添加の有無に関わらず、精製標品に目的の活性は検出されなかった。上記実験と並行して、RhlRの発現プラスミドと、RhlRが制御するプロモーター配列の下流にβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を配置したプラスミドを保持する大腸菌レポーター株を作出し、レポーターアッセイによる完全長RhlRとN末端短縮型RhlRの転写促進活性の比較・検討を行った。結果、完全長RhlRは、AHLの添加量に応じて顕著な活性を示したのに対し、N末端短縮型RhlRは全く活性を示さなかった。以上のことから、RhlRのN末端側の数残基は、RhlRの不安定性の要因である一方、転写促進因子としての機能に不可欠であると結論した。
2: おおむね順調に進展している
昨年度までの取り組みにより、N末端短縮型RhlRの大腸菌を用いた発現と精製に成功した。過去に、C末端側のDNA結合ドメインのみを発現・精製した実験の報告がなされているが、完全長に近い形でのRhlRの精製が達成されたのは今回が初めてであり、大きな進展と考える。しかしながら、精製タンパク質を用いたゲルシフトアッセイでは、DNA結合活性を検出することはできなかった。また、大腸菌レポーター株を使用した実験では、N末端側アミノ酸残基が、RhlRの転写促進因子としての機能に不可欠であることが明らかとなった。上記実験は、RhlRの構造・機能相関に関していくつかの重要な知見をもたらしたが、RhlRの性質と機能には未だ多くの謎が残されており、本研究課題の達成のためには、完全長RhlRの精製と解析を含め、更なる研究が必要と考える。
1. RhlRの発現・精製と解析: 前年度までに決定した条件により、大腸菌で完全長RhlRを発現させ、N末端短縮型RhlRと同様の手順により単離・精製する。精製標品(完全長RhlRとN末端短縮型RhlR)を用いて、各種AHLのRhlRとの親和性を解析するとともに、AHLの解離/結合によるRhlRの分子量、安定性(凝集・失活の有無やプロテアーゼに対する抵抗性)の変化を調べる。本実験と並行して、RhlRのDNA結合活性を検出するための方法の検討を行う。RhlRが機能を発揮するためには緑膿菌由来の未知の小分子化合物またはタンパク質性因子が必要である可能性が考えられるため、緑膿菌の培養上清や無細胞抽出液の添加の影響を調べる。これらの試みがうまくいかなかった場合は、DNase Iフットプリント法、蛍光偏光解消法、分子間相互作用解析装置(Biacore)による解析などの、ゲルシフトアッセイ以外の方法による検出を試みる。以上の実験を通して、RhlRの性質や機能に関して、新たな知見の獲得を目指す。2. QscRの普遍性の検討および生理的役割の検証: 当初の計画通り、QscRの普遍性と生理機能に関する研究を進める。具体的には、様々な症例由来の緑膿菌臨床分離株を対象として、qscR遺伝子の保存性を確認し、発現の有無、発現量、機能性に関する検証を行う。qscR遺伝子破壊株を作製し、病原因子の産生性を野生株と比較するとともに、マウスの感染実験を実施し、緑膿菌感染におけるQscRの役割を検証する。
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Japanese Journal of Infectious Diseases
巻: - ページ: -
10.7883/yoken.JJID.2018.403
mBio
巻: 9 ページ: -
10.1128/mBio.01274-18
http://www.med.osaka-cu.ac.jp/bacteriology/