緑膿菌は、自身の病原性をクオラムセンシング(QS)と名付けられた細胞間情報伝達機構により制御している。本研究では、医学的に重要な緑膿菌QSの理解の進展を目指し、その制御因子であるRhlRとQscRの機能解析を行っている。 RhlRに関しては、平成29年度から30年度に渡り、大腸菌を用いた発現と解析に取り組んだ。結果、完全長のRhlRは不溶性が極めて高く可溶性画分への発現は成功しなかったが、N末端を数残基分切り縮めることにより可溶化できることを発見した。しかし、N末端短縮RhlRには転写促進因子としての活性が認められず、N末端の数残基はRhlRの転写促進因子としての機能に不可欠であることが判明した。そこで、最終年度はN末端配列をより詳細に解析することとし、N末端を1残基ずつ切り縮めた一連の分子種の作製と解析に取り組んだ。結果、2~5番目の残基を除去した分子種はいずれも完全長と同様の性質・機能を示したのに対し、6番目以降の残基を削除した分子種全てに高い可溶性と活性の消失が認められた。このことから、6番目以降の数残基が関わる何らかのプロセス(例えば二量体化)が不溶化の引き金になっている可能性が示された。これら一連の発見は、多くの構造-機能相関的知見をもたらした点において、重要な成果であると言える。 QscRに関しては、平成30年度に論文発表した研究により、その直接の支配下にある3遺伝子(PA1895-1897)の働きを介してQSを抑制していることが判明したため、最終年度はそれら遺伝子の機能解析に取り組んだ。特にPA1895-1897がQSシグナルの分解やシグナル合成酵素の阻害物質の産生に関わる可能性を検証したが、それらを支持するデータは得られなかった。現在、上記仮説以外にも様々な可能性を視野に入れ、PA1895-1897の解析を進めている。
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