研究課題/領域番号 |
17K15691
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
佐藤 祐介 自治医科大学, 医学部, 助教 (20757265)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細菌 / 感染症 / 黄色ブドウ球菌 / 持続感染 / ゲノム / 病原性 / 薬剤耐性 |
研究実績の概要 |
本研究の対象菌は自ら染色体の再編成を行い、NCVとSCVの2つの表現型を切り換える。昨年度までに、このゲノム再編成に重要なDNA領域か欠失した複数のノックアウト株を作成し、表現型解析を行なった。本年度でも引き続き、この解析を行なった。 これまでの研究で、NCV固定変異株およびSCV固定変異株はコロニーサイズ(増殖速度)が変化する一方、薬剤感受性などの表現型は固定化していた。しかし、本年度の解析でこれとは異なる現象が認められた。つまり、あるSCV固定株集団中のごく一部の細胞(mSCV)が、NCVよりも大きいコロニーサイズで固定化され、薬剤耐性を示すことが確認された。複数の条件で培養試験を行なったが、mSCVがSCVに戻る現象は認められなかった。さらにNCV野生株を液体培地中で培養すると定常期到達後、SCVに変化し再び増殖する現象(再増殖期)が認められるが、mSCVはこの現象を示さなかった。このイレギュラーな現象は、作成したSCV固定株のうち1つのゲノム再編成必須領域変異株のみで認められており、何らかの理由で突発的に発生するものと考えられた。このことから、コロニーサイズの切り替えに関して、当初予想していたよりも複雑なゲノム再編成メカニズムが存在することが示唆された。 今年度では菌の生体内でのダイナミズムをつぶさに観察するために化学発光細菌を用いた実験系の確立を行なった。具体的には細菌ルシフェラーゼをブドウ球菌に導入し、基質を外部から投与しなくとも自家発光を示すことを確認した。さらにこの光強度は菌の生菌数や代謝の状態(ATPの生合成量と推定される)と相関をあることを試験管内およびマウス体内で確認した。今後はこの実験系を用いて、これまでに行なってきた菌数、コロニーサイズやphenotype以外にも菌の生理活性の面での評価を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度はin vitroでのphenotype評価に集中した。特にゲノム再編成を起こせないはずの変異株に着目し、菌が増殖のどのタイミングで表現型を切換えているかの精査を行なった。そして当初の予測に反して、ある種の変異株が不可逆的と思われる表現型の変化を起こすことが判明したため、この現象の真偽の検証に時間を要した。このため本年は本格的なin vivoの実験を一切行わなかったために、遅れが生じた。 この現象はin vitroだけでなくin vivoでの試験でも起こる可能性は高く、今回の検証を行わなかった場合に、実験の間違った解釈や遠回りをし、返って時間を要した可能性がある。そのリスクを回避できたと考えられるため、今後の挽回は可能だと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も昨年度までと引き続き、ゲノム再編成と持続感染メカニズムの解析をin vitroおよびin vivoで進める。本年度は表現型切換えに関与する詳細な分子メカニズム、特にその責任因子の同定を進める。手法としてはゲノミクス解析に、プロテオミクスおよびトランスクリプトーム解析を組み合わせたオミックス解析で進める。動物を用いたin vivo解析では引き続き感染実験を進める。マウスに野生株および変異株を感染させ、感染期間中での病理学的なダイナミズムの変化を解析する。以上の研究を進めることで、当初目的としていた「細菌のゲノム再編成」と「持続感染」の解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はin vitroでのphenotype解析を中心とした実験を進めたため、その他のin vitroでの分子生物学的解析および本格的なin vivo解析のための予算は計上しなかった。また参加予定だった2019年の日本細菌学会総会(例年3月開催)が例年と異なり4月開催となったために、その分の旅費を本年度は計上しなかった。これら余剰分は翌年度に持ち越しを行なった。次年度では本年度実施しなかった実験項目の実施および学会参加に未使用分を使用する。
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