研究課題
本研究で使用しているブドウ球菌は、自ら染色体の再編成を行うことで表現型 (NCV & SCV) を切り換え、持続感染を成立させていると考えられている。昨年度までに、再編成不能変異株を用いた解析を進めてきた。本年度では、その続きとして持続感染のメカニズムに焦点を当てて研究を進めた。まず、バイオフィルムを使った比較解析を進めた。抗菌薬を含まない培地を用いるとNCVは、SCVと比較し、一時的に強固なバイオフィルムを形成する。しかし、NCVのバイオフィルムは短時間で破壊され、菌がバイオフィルム外に拡散した。一方、SCVでは持続性の面に優れ、長期間に渡り維持していた。次に治療を想定し抗菌薬処理を行うと、感性菌であるSCVは殺菌とともにバイオフィルムが破壊された。一方、耐性菌であるNCVは抗菌薬下でも生存するとともに、バイオフィルムも強固に保ち続けた。さらに薬処理後、抗菌薬を抜いてやることで、NCV本来の性質である速やかなバイオフィルム破壊が進み、菌が外に拡散した。一方、SCVでは抗菌薬を抜いた後、僅かに残存していた菌から再度バイオフィルムを作る傾向が認められたが、局所での持続性は認められなかった。この現象はマウスを用いた生体内でも認められ、投薬と断薬により、感染巣の増減として同様の現象が認められた。つまり、感染当初NCVの方が大きな病巣を作るが、すぐに排膿してしまう一方、SCVでは感染巣こそ小さいが、長く皮下に定着する。抗菌薬投与により、SCVはすみやかに治療されるが、NCVは生存し、治療中止後悪化する。表現型が固定されている変異株と異なり、NCVーSCVを行き来出来る野生株ではゲノム再編成による表現型の切替えにより、緩慢な持続感染を認めた。各表現型固定株および野生株を用いた実験を行い、菌の性状のうちバイオフィルム形成能力および抗菌薬耐性が持続感染に重要であることを確認した。
すべて 2020 2019
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