これまでに溶菌酵素Psmの酵素活性に重要なアミノ酸や菌との結合に重要なアミノ酸などを明らかにしたが、Psmがウェルシュ菌のどこに結合するかは分かっていない。今回、タイコ酸に注目し、ウェルシュ菌のタイコ酸欠損株の作製を行い、Psmの溶菌活性に対する影響を調べた。ウェルシュ菌のタイコ酸合成遺伝子tagO、tagAの上流にxylRを組み込んだ株は、キシロースを加えずに培養するとtagO、tagAの発現がmRNAレベルで大きく低下した。tagO、tagA発現抑制株は親株であるNH13と比べてタイコ酸量は大きく低下していたが、完全には抑制できなかった。バインディング解析の結果、PsmはtagOの発現抑制株に対する結合がわずかに低下しており、tagO、tagAの発現抑制株の溶菌活性の低下もわずかにみられた。このことから、Psmの溶菌活性に対してタイコ酸はわずかだが影響していることがわかった。 また、Psmはウェルシュ菌に強い溶菌活性を示す一方で、同じClostridium属菌に対しても溶菌活性をほとんど示さない。Psmは触媒ドメインだけでは溶菌活性を示さず、菌種特異性には菌への結合が重要なのではないかと考えた。本研究ではPsmの細胞壁結合ドメインとして存在するSH3_3ドメインをディフィシル菌に存在するエンドペプチダーゼのSH3_3ドメインと組み替えた。作成したキメラ酵素の1つであるCD11350BD_PsmCDは、ウェルシュ菌だけではなく、デフィシル菌、C. coccoides、C. lituseburense、C. novyiなどにも結合した。また、デフィシル菌以外の菌に対して溶菌活性を示した。今回作成したキメラ酵素はターゲットとしたディフィシル菌に対して溶菌活性を示さなかったが、Psmの強い溶菌活性を保持したまま任意の他菌種にも溶菌活性を示すキメラ酵素の構築が期待される。
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