現在の抗HIV 療法ではHIV感染症は根治せず、患者体内では慢性的に炎症状態が続いている。我々はこれまでにHIV由来の短鎖RNAを指標に残存ウイルスの転写活性を検出する独自の方法を考案し、残存感染細胞の転写とCD8+ T細胞の活性化が強く相関していることを報告した。この観察は残存ウイルスの持続的な転写・複製と慢性炎症の相互促進の可能性を示唆しており、この悪循環を成立させる体内環境の解明は病態理解を深める上で不可欠である。本研究では患者の体内環境を精査することで、HIV の持続感染および慢性炎症が成立する分子基盤の理解を試みた。平成30年度は短鎖RNAを発現する感染細胞の性状解析を目的に、T細胞サブセットの同定を試みた。抗レトロウイルス療法を2年以上施行し、血漿中HIV RNA量が1年以上にわたって検出感度未満であるにもかかわらず短鎖RNAが検出されている患者からCD4+ T細胞を分取し、フローサイトメトリーを使用して各サブセットに分画し、短鎖RNAの発現量を測定した。HIV由来短鎖RNAの発現が検出されたサブセットはcentral memory、early-およびintermediate-differentiated effector memory CD4+ T細胞であった。今後は感染細胞内のプロウイルスの存在比との考察から、残存感染細胞の特定と、ウイルスの転写の起きやすいサブセットの同定を行う。これらの解析から得られる知見は、残存感染細胞の持続的な転写活性化および慢性的な免疫賦活化が成立する分子基盤の理解につながる。
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