研究課題
先の研究で、培養細胞系において、HBVの遺伝子およびウイルス蛋白質がエキソソームに内包されており、さらにウイルスとして肝細胞への感染性を有することを見出した。このことは、エキソソームを介したHBVの感染が動物レベルでも起こりうることを示唆している。本研究では、培養細胞系およびHBV感染モデル動物を用いてエキソソームを介したHBVの新規感染機構の解明および感染性の評価を目的としている。平成29年度はHBVを感染させたヒト肝臓置換キメラマウスを用いて、生体におけるエキソソームに内包されたHBVの解析を行った。HBV感染キメラマウスの血清よりエキソソームを抽出し、解析を行ったところ、感染個体のエキソソームよりウイルスの遺伝子が検出された。さらにこのエキソソームを肝細胞へ接種すると、ウイルスが肝細胞に接着することが明らかとなった。またHBVに対する中和抗体を用いた中和試験を行ったところ、エキソソーム画分ではないウイルスの肝細胞への接着は中和抗体によって阻害されたの対して、エキソソームを介したHBVの接着は、中和抗体では阻害されなかった。以上の結果から、生体においてもエキソソームに内包されたHBVの存在が示された。さらにエキソソームを介した感染を防ぐためには中和抗体のみの誘導では十分ではないと考えられることから、細胞性免疫等を誘導するような新規免疫法の検討をHBV感染感受性動物であるツパイを用いて進めており、良好な結果が得られている。エキソソームを介したHBVの新たなる感染経路は、ウイルスに対する中和抗体を回避する感染機構として重要な意味を持つため、今後のさらなる解析が期待される。
2: おおむね順調に進展している
HBV感染感受性動物であるヒト肝臓置換キメラマウスの調達に時間を要してしまったため、キメラマウスを用いた研究に関してはやや遅れてしまっている。一方で、エキソソームを介した感染を予防する免疫法の検討はツパイを用いて進めており、当初の予定以上に進展している。
これまでに、ウイルス感染個体の血中に存在するエキソソームに、ウイルスが内包されていることが明らかとなった。今後は、ウイルス粒子とエキソソームに内包されたウイルスが感染個体の血中においてどの程度存在し、またそれぞれの他の動物に対する感染性を比較すべく、ヒト肝キメラマウスやツパイを用いて実際に感染実験を行うことで解析する。またエキソソームを介した感染の詳細なメカニズムを培養細胞系を用いて、解析を進める。さらには、予防ワクチンを接種したツパイへの感染実験を行い、エキソソームを介した感染を予防するワクチンの確立を試みる。本年度の研究成果を基に、エキソソームに内包されたHBVの感染機構を詳細に明らかにし、HBVの感染環における役割の解明を試みる。
使用する動物の調達に時間がかかり、当初予定していた研究の順番を変更したために、次年度使用額が生じた。2018年度は、培養細胞や実験動物を用いた種々の研究に必要な試薬などの購入に使用する予定である。
すべて 2017 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件)
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