研究課題
一度感染症にかかれば二度と同じ感染症に罹患することがない、いわゆる免疫の獲得という現象から、我々は、「免疫記憶」というシステムが存在すると理解することができる。免疫記憶の柱の一つは、骨髄に存在する長期生存形質細胞である。抗原刺激を受けたB細胞は、脾臓やリンパ節の胚中心で、抗体を産生する短寿命の形質細胞に分化する。その後、一部の細胞が体内を循環して骨髄に定着し、長期に維持されることが知られている。骨髄の形質細胞ニッチは、IL-6やAPRILなどの形質細胞生存因子を分泌する好酸球や樹状細胞、それらの細胞を保持するCXCL12産生ストローマ細胞など、様々な細胞から構成されていることが知られているが、形質細胞自体の性質の変化は明らかではない。我々は、骨髄の形質細胞で脾臓に比べて発現が高い遺伝子として、セリンプロテアーゼ阻害因子であるSLPIと、亜鉛を結合するメタロチオネイン(MT)1とMT2を同定した。SLPI欠損マウスの形質細胞の表現型の解析を行った結果、同腹の野生型と比較して、形質細胞数、血清中の抗体価に有意な変化は見られなかった。さらに、NP-KLHを免疫し、半年後にNP-KLHに対する抗体を産生する形質細胞数を解析したところ、野生型と、SLPI欠損マウスで差は見られなかった。single cell RNA-seq (scRNA-Seq) 解析の結果、SLPIの遺伝子発現は、IgG型形質細胞で高く、IgA型では中程度で、IgM型形質細胞ではほとんど発現していないことがわかった。scRNA-Seq及び、フローサイトメトリー、ELISpotで骨髄と脾臓の形質細胞のアイソタイプを調べたところ、興味深いことに、どちらの組織でも半数以上が小腸などの粘膜免疫で重要なIgA型の細胞であった。また、scRNA-Seqの結果、IgM型形質細胞は脾臓で40%を占めていたが、骨髄では検出されなかった。したがって、SLPI遺伝子の発現が骨髄で高いのは、アイソタイプの違いを反映している可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
初年度の目標であったSLPI欠損マウスの形質細胞の表現型解析がほぼ終了したことから、おおむね順調に進んでいると判断した。
1年目の研究で、骨髄と脾臓では形質細胞のアイソタイプの構成が異なることがわかった。また、意外なことに、粘膜免疫で重要なIgA型の形質細胞が両組織で豊富に存在した。これまでの骨髄の長期生存に関する研究は、主にIgG型の形質細胞のものであった。そこで、2年目はIgA型の形質細胞も骨髄で長期生存するのかを明らかにする。具体的には、IgA型形質細胞が最も活発に作られる離乳直後のマウスにBrdUを2週間飲水から投与し、この時期に作られたIgA型形質細胞をラベルする。半年後、マウス骨髄と脾臓でBrdU陽性形質細胞が検出されるかどうか調べる。さらに、scRNA-seqの結果、骨髄でMT1とMT2遺伝子を高発現する細胞は、ストレス耐性の遺伝子を有意に高く発現していた。そこでこれらの遺伝子がIL-6やAPRILなどの形質細胞生存維持サイトカインで発現制御されるか調べる。これらの研究を通して、骨髄の形質細胞維持機構を明らかにするのが目的である。
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International Immunology
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10.1093/intimm/dxy018