研究課題/領域番号 |
17K15717
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研究機関 | 公益財団法人朝日生命成人病研究所 |
研究代表者 |
井原 聡三郎 公益財団法人朝日生命成人病研究所, その他部局等, 教授(移行) (60770039)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 炎症性腸疾患 / 樹状細胞 / 腸オルガノイド / Notchシグナル |
研究実績の概要 |
炎症性腸疾患は難病指定疾患で、遺伝的要因、環境要因、腸内細菌などの複雑な要因が発症に関与するため、その病態は十分には解明されていない。本研究の目的は炎症性腸疾患における樹状細胞と腸管上皮細胞の相互作用の役割を明らかにする事である。研究実施計画に沿って、平成29年度は主に以下の3点の研究成果を得た。 1.樹状細胞と腸オルガノイドを3次元で共培養する実験系を確立した。 2.共培養系を用いてDC-腸上皮間のNotch/Wnt シグナル制御の解析を行った。 3.DC が腸上皮幹細胞に直接作用して腸上皮分化を制御する“幹細胞ニッチ”として機能しているかを検討するため細胞系譜追跡できる腸オルガノイドを用いた共培養系を確立した。 これらの研究成果から、樹状細胞が直接的に腸管上皮細胞に接着して、腸管上皮細胞の分化異常を引き起こすことが明らかとなった。この分化異常はNotchシグナルの活性化を特徴としており、炎症性腸疾患の腸管上皮で起きている現象と類似した結果であった。さらには、樹状細胞が上記の接着作用を介して幹細胞ニッチとして機能する事も分かった。これらの知見から、炎症性腸疾患の病態の一つに、樹状細胞を介した腸管上皮分化異常があることが示唆された。上記研究成果を平成30年度に論文として報告予定である。本研究で確立した樹状細胞ー腸オルガノイド共培養系は、炎症性腸疾患の病態解明ならびに治療薬への応用などに有用なツールとなりうるため、今後の炎症性腸疾患の研究への利用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で確立した樹状細胞ー腸オルガノイド共培養系は、炎症性腸疾患の病態解明として有用なだけでなく、炎症性腸疾患の治療候補となりうる薬剤のスクリーニングツールとして利用できる事が追加実験で明らかになったため。ある薬剤Xを樹状細胞ー腸オルガノイド共培養系に投与すると、Notchシグナル活性化などの炎症性腸疾患でみられる異常なシグナルが是正されることが明らかとなり、今後薬剤Xを用いた炎症性腸疾患の治療薬への応用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画としては、平成30年度に以下の2点について検討する予定である。 課題1.腸管幹細胞分化への関与(DC は幹細胞ニッチなのか?) 課題2. 腸オルガノイド・DC の共培養系への腸内細菌感染の試み 課題1については、平成29年度に既に実施しており、予定よりも早く遂行している。課題2については、腸管細菌をオルガノイド内に注入することが技術的に困難な事と、樹状細胞ー腸オルガノイド共培養系が薬剤のスクリーニングツールとしての方が発展性があると考えており、平成30年度には薬剤のスクリーニングツールとしていくつかの薬剤を投与して、樹状細胞を介した腸管上皮分化異常による炎症性腸疾患発症という病態への治療効果を解析して、今後の研究へと発展させたいと考えている。
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