炎症性腸疾患は難治性腸疾患であり、遺伝的要因、環境要因など複数の要因が発症に関与するため、その病態は十分には解明されていない。本研究の目的は炎症性腸疾患における樹状細胞と腸管上皮細胞の相互作用の役割を明らかにする事である。当初の研究実施計画に沿って、以下の4点の研究成果を得た。 1.樹状細胞と腸オルガノイドを3次元で共培養する実験系を確立した。本共培養系を用いて樹状細胞が直接的に腸管上皮細胞に接着し、腸管上皮細胞の分化異常(杯細胞減少)を引き起こすことが分かった。 2.本共培養系を用いて樹状細胞-腸上皮間のシグナル伝達制御を解析した結果、樹状細胞によって引き起こされる腸管上皮細胞の分化異常はNotchシグナルの活性化を特徴としており、炎症性腸疾患の腸管上皮で起きている現象と類似していた。 3.本共培養系に細胞系譜追跡可能な腸オルガノイドを用いたところ、樹状細胞によって腸上皮幹細胞レベルで分化異常が誘導され、結果的に孫細胞において杯細胞減少が起きることが観察された。このことより樹状細胞が幹細胞ニッチとして作用することが示唆された。 4.本共培養系を用いて炎症性腸疾患の新規治療候補となるような薬剤のスクリーニングを検討した。樹状細胞に発現している細胞表面分子に着目したところ、抗Eカドヘリン抗体を本共培養系に投与すると分化異常が改善することが分かった。また炎症性腸疾患患者の樹状細胞においてEカドヘリンの発現が亢進していた。今後Eカドヘリンを標的とした治療について検討を進める予定である。 以上より、炎症性腸疾患の病態の一つに樹状細胞を介した腸上皮分化異常がある可能性を示した。また、本研究で確立した樹状細胞ー腸オルガノイド共培養系は炎症性腸疾患の病態解明や治療薬の開発に有用なツールであり、今後の炎症性腸疾患の研究への利用が期待される。
|