研究課題
自然免疫系は、病原体感染の初期認識および迅速な炎症反応の惹起を担い、さらにはその後に起こる獲得免疫系の誘導にも必須な役割を果たす生体防御機構である。我々は、RLRファミリーに属するRIG-IとMDA5が、それぞれ異なるRNAウイルスを認識し、ウイルスに対する生体防御に必須の役割を果たすI型インターフェロン(IFN)および炎症性サイトカインを誘導することを明らかにしてきた。RLRのRNAウイルス感染防御における重要性は広く認められており、世界中でRLRにより惹起されるシグナル伝達に関わる因子の探索が活発に行われ、これまでにいくつかのRLRシグナル制御因子が同定されている。これまでに私たちはRNAウイルス感染の検知を担う自然免疫センサー、RIG-Iの活性化を促進する新規自然免疫制御因子MEX3Cを同定した。MEX3CはE3リガーゼであり、翻訳後修飾であるユビキチン修飾を介してシグナル伝達経路を制御する。MEX3CはRIG-Iのリジン63結合型(K63型)ユビキチン修飾を介してRIG-Iによる炎症性サイトカイン誘導を促進しており、実際にMEX3C欠損マウス由来の細胞ではRIG-I依存の炎症性サイトカイン誘導が著しく損なわれた。またMEX3Cはユビキチン修飾を介してmRNAの分解に関与していることが報告されている。しかしながら、MEX3Cによって制御されている現象にはいまだ不明な点が多い。そこで本研究ではMEX3Cの(1)相互作用するウイルスRNAと細胞内タンパク質、(2)B細胞成熟化における役割に焦点をあてて研究を進めている。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の研究を計画ごとに記載する。[計画1]:ウイルス感染に対する自然免疫応答制御機構の理解MEX3CはどのようにウイルスRNAと結合するかを確認するため、発現ベクターで強制発現により各ドメインを欠損させたリコンビナントタンパク質に結合したタンパク質をMASSで、RNAをQPCRで解析し、データを集計した。得られたデータから重要なたんぱく質を同定し免疫染色で使用できる抗体で局在を確認、MEX3Cとの相互を作用を確認した。またMEX3CとRIG-Iはどのような複合体の形成についてはNMRと腕の解析まで至っていない。MEX3CがRIG-I施すユビキチン修飾にはどのような違いがあるのかについて、リジン48番目63番目特異的に反応する抗体を利用して検討をしたところ、63番目のリジン特異的にユビキチン化が誘導されることが分かった。RIG-Iに対するユビキチン化の違いについてはまだ細かく解析できていない。[計画2]: MEX3CのB細胞成熟化における役割、遺伝子発現からターゲット因子の同定MEX3CノックアウトB細胞の遺伝子発現をマイクロアレイにて解析したところ、野生型と比較しmRNA発現が大きく異なる遺伝子がみられた。この分子は細胞の分化や成熟に重要な分子かどうかの解析を今後進めていく。
前年に引き続きMEX3Cによって制御されている現象の本質を見極めるために研究を進める。本年度はMEX3CノックアウトB細胞をマイクロアレイをして得られたデータの解析や、マイクロアレイによって新しく見つかった分子に関してもそれぞれと相互作用する分子をY2Hスクリーニング、及び質量分析解析によって同定を行う予定である。これらの分子の解析とMEX3Cとの相互作用や、MEX3CノックアウトB細胞の電子顕微鏡による形態の観察等を進める。また、MEX3Cが結合するタンパク質やRNAの解析に力を入れて研究を進めていく。当初計画していたが、解析できていない部分を重点的に行う予定である。
本年度も研究費は消耗品(試薬、実験動物、培養器具等)に使用する。本研究では、in vivoの実験では実験一回多くのマウスが必要であることから実験動物の維持に多くの費用を必要とする。また電子顕微鏡での細胞形態や発現遺伝子の解析でのマイクロアレイ、結合タンパク質の解析に費用を要する。さらに、in vitroでの細胞培養、RNAの抽出ならびにリアルタイムPCRのプライマーおよびプローブ、ウェスタンブロッティングの試薬を必要とする。
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