研究課題/領域番号 |
17K15726
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
織 大祐 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (70709287)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 自然免疫 / RNA結合タンパク質 / 転写後調節 |
研究実績の概要 |
これまでの研究より、RNA結合タンパク質であるHuRが、ウイルス感染応答におけるI型インターフェロン(IFN)産生を正に調節しており、またこのメカニズムにおけるHuRの標的遺伝子の候補として、IRF3の活性化に関与するとの報告があるPlk2が同定されていた。昨年度は、主にHuR-Plk2がどのようにI型IFN産生調節に関与しているかの解析を行った。その結果、 ①Plk2遺伝子発現がウイルス刺激に対して誘導されることを見出し、当該遺伝子のウイルス感染応答における重要性を示唆した。またPlk2はPlk1からPlk4の4種のタンパク質からなるPlkファミリーの一つであるが、Plkファミリーの中でもPlk2以外はウイルス感染において誘導されることはなく、Plk2のみが特異的に誘導されていたことも注目すべき点である。 ②実際にPlk2がウイルス感染応答におけるI型IFN産生に関与しているかを確認するため、Plk2欠損細胞株を作製して解析を行ったところ、HuR欠損細胞株における結果と一致して、Plk2欠損細胞において、ウイルス感染に対するI型IFN産生が低下していた。 ③HuRがどのようにPlk2の調節に関与しているかを解析を行い、HuRがPlk2 mRNAに直接結合することによりその安定化を行っていることを見出した。さらに、この安定化にはPlk2 mRNAの3'非翻訳領域に存在する4番目のUリッチエレメントが関与していることを見出した。 以上の結果はウイルス感染に対する複雑な免疫応答の一端を明らかにしたものであり、その包括的な理解のために重要な意味を持つとともに、感染症に対する新たな治療標的を提示するものであると考えている。 また、現在HuRを含むRNA結合タンパク質と自然免疫応答の関与を明らかにするため、CRISPR/Cas9システムを用い、RNA結合タンパク質の網羅的な解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要にもある通り、ウイルス感染応答に対するI型IFN産生におけるHuRの重要性の解析を行った。 また、HuRに結合する遺伝子は既に網羅的に同定されており、現在、Plk2以外のHuRの標的遺伝子の機能の解析を行っており、順調に推移していると考えている。 さらに、HuRを足掛かりにしたRNA結合タンパク質と自然免疫応答との関連を明らかにするための網羅的解析においては、CRISPR/Cas9システムを利用した実験系を計画しており、実験に適した複数の細胞株の選定および当該細胞株への安定的遺伝子導入を終えるとともに、この実験に使用するウイルスベクターの作製が進んでいる。現在マウスにおいてはRNA結合タンパク質として約400種が同定されており、このうち現在約200種に対するウイルスベクターの作製を終えている。 また、細胞株を用いた解析と比較し、より生理的条件に近い解析を行うため、当初の計画には無かったものであるが、CRISPR/Cas9システムに必要なコンポーネントの1つであるCas9を恒常的に発現するマウスの作製も行っている。このマウスを用いることにより、腹腔マクロファージや骨髄由来マクロファージ、さらには骨髄由来樹状細胞などの初代培養細胞を用いて遺伝子欠損細胞の作製および、これらを用いての自然免疫応答の解析が可能となる。当該マウスの作製に関しても、現在ES細胞を用いた組換えを行っており、目的のES細胞の選別を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
ウイルス感染に対する自然免疫応答におけるHuRの機能解析に関して、HuR欠損細胞において観察された実験結果をすべて標的遺伝子Plk2のみで説明することはできず、今後のさらなる解析が必要であると考えている。そこで、進捗状況にもあるように、CRISPR/Cas9システムを用いて、HuRを含めたRNA結合タンパク質を網羅的に解析することで、自然免疫応答におけるRNA結合タンパク質の機能の解析を行っていく。 具体的には、先に記載した、Cas9を恒常的に発現する細胞株およびRNA結合タンパク質に対するガイドRNA発現ウイルスベクターを用い、網羅的にRNA結合タンパク質を欠損した細胞株を作製し、様々な自然免疫リガンドでの刺激やウイルス感染に対するサイトカイン産生によるスクリーニング、さらには自然免疫リガンドを用いた細胞死の誘導によるスクリーニングなどを行った後、次世代シーケンサーを用いて候補遺伝子の探索を行う。 同時に、より生理的条件下でのスクリーニングおよび解析を行うため、Cas9を恒常的に発現するマウスの作製を進め、作製が完了次第、このマウスから採取した初代培養細胞を用いてもまたスクリーニングを実施する。
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