研究課題
自身の免疫を賦活化させてがんを駆逐するがん免疫療法が第4のがん治療として認知され、幅広いがん種に対して治験や承認が進んでいる。よって、一部の患者における強い抗腫瘍免疫応答と共に生じる免疫関連副作用(Immune related adverse event: irAE)のコントロールは喫緊の課題である。これまで、irAEの発生機序やirAEをコントロールするために投与される免疫抑制剤(ステロイド)が抗腫瘍免疫応答に与える影響について詳細な検討はなされてこなかった。 本研究は、マウスモデルを用いてステロイドが免疫チェックポイント阻害剤により誘導された抗腫瘍免疫応答にどのような影響を与えるのかを明らかすることである。これまでに本研究代表者らは純系マウスモデルにおいて免疫療法後腫瘍拒絶をした個体にステロイドを投与すると腫瘍が増悪することを観察している。この結果からステロイドが賦活化された抗腫瘍免疫に対して何らかの影響を与えていることを示唆していた。これまでの研究実績において、ステロイドの投与量・投与時期を比較検討したところステロイドの容量依存的に腫瘍の増悪が見られること・投与時期が後期になれば抗腫瘍免疫への影響がないことを見出した。さらに、脂肪酸代謝経路を介してTCR親和性の低いがん抗原特異的CD8陽性T細胞のメモリー形成を抑制していること・細胞外フラックスアナライザーを用いた検討ではTCR親和性が低い場合にステロイド投与により酸素消費量が低下することを明らかにした。また、臨床検体において免疫チェックポイント 阻害剤投与後のステロイド投与時期やmutation burdenでの生存率の比較検討を行ったところマウスモデルで得られた結果と相関しているというデータを得たため論文投稿をおこなった。
1: 当初の計画以上に進展している
共同研究先より得られた臨床データをレトロスペクティブに解析を行ったところmutation burdenが少ない患者群つまりTCR低親和性ではステロイドの早期投与ではOSが低下し、mutation burdenが多い患者群つまりTCR高親和性ではステロイドの投与時期にかかわらずOSが維持された。ステロイドによるメモリーCD8+T細胞の合成が阻害されずに維持された結果であると推察される。マウスモデルでの検討により得られたデータと臨床データとの比較検討が終了し、論文による報告を行った為当初の計画以上に進展している。
本研究課題で得られた知見を基に、メモリー前駆細胞維持・補充などよりirAEの発症予防・コントロールが可能であるかどうかをマウスモデルを用いて検討を行い免疫チェックポイント阻害剤を適正に使用する為の提案を続ける。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
J Exp Med .
巻: 12 ページ: 2701-2713
10.1084/jem.20190738