研究課題/領域番号 |
17K15744
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 洋介 京都大学, 医学研究科, 准教授 (30583190)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | QOL / 効用値 / マッピング |
研究実績の概要 |
平成30年度は、以下の項目について研究を実施した。 1.効用値を得るためのアルゴリズムに必要な変数選択について:平成29年度に、研究者がアクセス可能なコホートデータの中の特定健診に係る項目、自覚症状・併存症・問診項目のそれぞれならびにすべて投入した場合の予測能の比較を行ったものの、いずれの予測性能も悪く、更なる改善が必要と推察された。平成30年度はその反省を踏まえ、特定健診以外で比較的容易に入手できる健診などで収集される項目のうち、効用値を含むQOLの予測に重要と思われる変数について、、臨床疫学者3名、ビッグデータの専門家1名、総合内科専門医2名により討議を行った。結果、レセプトに基づき推定される疾患名、医療資源の消費の程度、社会経済的地位に関する情報などが候補として挙げられ、これらの情報をも加えたモデル構築を目指すこととなった。 2.QOL推定値算出のためのモデル開発のためのデータ整備:上記の検討結果を踏まえ、データの入手可能性について再度検討を行ったところ、アクセス可能なコホートデータの一部についてレセプトデータの活用が可能であることが判明した。データマネジメントを行い、個人情報を一切含まない形でQOLに関するデータとレセプトデータを連結した上で、レセプトデータにおけるレセプト電算コード(医薬品・診療行為を含む)ならびに傷病名コードとの紐づけを行い活用可能な状態へと整備を完了した。その他国民標準値調査の社会経済的地位に関する情報や、さらには自己記入式併存疾患の情報をも用いた予測を測るべく、国民標準値調査で使用したデータベースの利用について申請、受理され次年度以降の分析を可能なものとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の報告書で目標として掲げた「1.モデルの改善、ならびに別コホートデータ使用」「2.実際のQOLスコアとモデルに基づくQOL推定値との乖離に関する検討」について、それぞれ進捗状況を以下に記載する。 1.モデルの改善、ならびに別コホートデータ使用:十分なモデル性能を得られなかった結果に基づき、特定検診以外の項目(レセプト項目など)でモデル改善が見込めうる変数について、専門家と協議を行い候補となる変数を臨床的に選択した。研究代表者がアクセス可能なコホートデータにレセプトデータを利用可能な形に変換することに成功した。 2.実際のQOLスコアとモデルに基づくQOL推定値との乖離に関する検討:複数のモデルを構築し比較検討を実施した。また、モデルを他のデータにおいても利活用することが可能か検討する(external validation)ため、国民標準値データの取得を行うことに成功した。直接効用値を測定するためのデータについて候補となる住民集団について一般住民パネルを所有する企業とも協議を行った。実際の調査は本年度に実施の予定である。 進捗で問題になっている点として、依然として使用に耐えうるモデルとするためには性能の改善が必要である点である。そのためには投入する変数の範囲を広げ、より精度の高いモデルの構築を目指してゆきたい。
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今後の研究の推進方策 |
1.モデルの更なる改善:説明変数としてレセプトデータに含まれる変数を組み合わせて投入することでモデル改善が見込めるかを検証を引き続き行う。また、レセプトデータの範囲を超えてその他の因子を投入することで改善するかどうかについても検討する。また、推定QOL値の推定精度を落としうる対象者の背景因子について探索的に検討する。 2.日本のレセプトデータベース(National Database, NDB)での検討・アルゴリズムの最終化:上記でレセプトのみである程度の精度を担保されたモデルが構築されれば、申請者も開設当初より携わっている日本全国のレセプトデータを用いた調査が可能なオンサイト・リサーチセンター(京大病院内設置)もしくは研究代表者が利用を認められている特別抽出データにてNDBを利用し、モデルの検証を行う。具体的には、レセプトを活用して、特定の病名の患者(例:糖尿病)ごとにQOL推定値を求め、重症度(糖尿病ならインスリン使用の有無等)との基準関連妥当性を検討する。最終的には、QOL推定アルゴリズムを固定し、公表する。 3.研究が当初計画どおりに進まない時の対応:全体集団においてアルゴリズム推定精度の向上が望めない場合には、推定の対象となるQOL尺度を変更し、高い推定精度が得られうるものを探索的に検討する。また、対象者の疾患などでのサブグループごとの推定精度を算出し、比較的高い推定精度を得られる疾患を同定することで、少なくとも特定の疾患領域での利用可能性を確保することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
1.次年度使用額が生じた理由:データクレンジングを要するデータを活用するためのデータ整理・事務に係る作業について、自身で実施したため人件費が不要となった。また、海外情報収集は次年度に行った方がより効率的な情報収集が可能になるとの見込みからさらに延期となった。 2.翌年度分の使用計画:海外での情報収集はもとより、効率的なコホートデータ活用の観点かつさらなるサンプル拡大を目指し、一般住民集団を対象とした大規模な新規調査費用に充てる。その新規調査においては、QOLデータならびに特定健診項目の収集、詳細な併存疾患の把握に加え、直接効用値の測定も実施する予定である。また、QOLの因子分析を目的として、参考図書や別途追加購入するべきソフトウェア(MPlusほか)の費用に充てる予定である。
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