オキサリプラチンは第三世代の白金製剤であり、罹患者数が多い大腸がんや胃がんの第一選択薬として使用される。腫瘍の縮小効果が高いものの、早期に耐性が生じるため、耐性の解除が化学療法における重要な課題である。申請者はこれまでにヒトスキルス胃がん細胞株OCUM-2Mから樹立したオキサリプラチン耐性株OCUM-2M/OXAを解析し、新たな抗がん剤耐性因子としてStromal cell-derived factor 2 (SDF-2) を同定した。しかし、SDF-2の機能が未知であることから、耐性が生じる分子機構を明らかにできずにいた。そこで、本研究ではSDF-2の分子機能を解析する。昨年度までに、がん細胞においてSDF-2が小胞体に局在することを明らかにした。さらに、SDF-2ノックアウト細胞を作製し、SDF-2の欠損がUPRシグナルに影響を与えないことを明らかにした。本年度は作製した細胞を用い、主要な小胞体機能である細胞内カルシウム貯蔵や糖鎖修飾に与える影響について調べた。その結果、(1) UPRシグナルを直接的に制御しないが、小胞体分子シャペロンであるBipの発現を抑制する。(2) O-glycosylationに影響を与えない。(3) 小胞体に局在するCa2+ポンプSERCAの阻害剤であるthapsigarginに対し耐性を獲得させる。(4) SDF-2欠損は小胞体からのCa2+放出量を有意に減少させることが明らかとなった。以上より、SDF-2欠損は小胞体のCa2+枯渇または小胞体からのCa2+放出を阻害することで、Ca2+依存的な細胞増殖やBiPの発現を抑制していると考えられる。SDF-2はSDF2L1と同様にBiPのタンパク質修復サイクルに寄与すると考えられてきたが、新たに小胞体のCa2+貯蔵の恒常性維持に関与することを明らかにした。
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